ネフローゼ症候群とは?
大量の尿蛋白、低蛋白血症、高脂血症、浮腫を引き起こす疾患の総称。
原因疾患
一次性(原発性)ネフローゼ症候群
腎臓自体の疾患によって直接的に引き起こされるもの。
微小変化型
顕微上下でも腎臓に異常がないように見えるくらい小さな変化がおきる病態で、電子顕微鏡でようやく「足突起の融合」という微小な変化が見える。
(ネフローゼ症候群の小児80%、成人25%を占める)
ステロイド投与のみで治療可能。
巣状分節性糸球体硬化症
髄質に近い部分の糸球体に、分節性の硬化をみとめる病態。
難治性の症例が多い。
膜性腎症
糸球体の毛細血管壁が厚くなる病態。中高年に発症するネフローゼ症候群で、一番多い原因疾患。
自然緩解することもあるが、1/3の症例で末期腎不全(ESKD)へ移行する。
一次性だけではなく、二次性(膠原病・感染症、はく剤、悪性腫瘍など)に生じる場合もある。
膜性増殖性糸球体腎炎(PGN)
糸球体に炎症が生じ、毛細血管内に細胞の増殖をみとめ、血管壁が厚くなる病態。ネフローゼの原因の8%がこれに当たる。
二次性ネフローゼ症候群
膠原病性腎症
膠原病(全身性の自己免疫疾患)を背景として、過剰な自己抗体が腎臓に炎症や損傷を引き起こす病態。
全身性エリテマトーデス(SLE)によるループス腎炎が知られている。
糖尿病性腎症
糖尿病の三大合併症のひとつ。糸球体の肥大や基底膜の肥厚、糸球体内の血圧上昇によりろ過機能が低下し引き起こす。
アミロイド腎症
異常な蛋白であるアミロイドが腎臓に蓄積しておこる病態。原因には、悪性腫瘍や感染症、遺伝的要因があるとされている。
病態生理
原因疾患に起因して、腎臓の糸球体(血液をろ過して1日200Lの原尿を作るところ)が損傷し、通常血管からろ過されないはずの蛋白がろ過されて尿中に出てしまっている。
脂質異常が起こる機序
血中にある蛋白の一種アルブミンが減ると、肝臓がアルブミンを合成し増やそうとする。その時リポタンパクという蛋白の合成も一緒に亢進する。リポタンパクは脂質を運ぶ働きをするため、大量のリポタンパクが脂質と結びついた結果、血中のコレステロール濃度が上昇する。
さらに、腎機能低下により、体内から脂質を効率的に排泄できなくなることも、脂質異常を増悪させることになる。
浮腫が起こる機序
アルブミンは膠質(こうしつ)浸透圧の作用で、水分を血管内にとどめておく作用がある。そのため、低アルブミン血症になると、血管内の水分が間質(細胞と細胞の間)へ漏れ出し、浮腫を引き起こす。
また、それに伴って循環血症量が低下すると、アルドステロン(Naと水の再吸収を促進させて循環血液量を増やそうとするホルモン)や交感神経の活性化によりNa再吸収が促進し、さらに浮腫が増悪すると言われている。
もう一つ、腎臓におけるNaの排泄低下、再吸収の亢進が生じて浮腫が起きるという仮説もある。
症状と診断
- 蛋白尿:3.5g/日以上が持続
(随時尿に置いて蛋白尿/尿クレアチニン比が3.5g/gCr以上の場合もこれに準ずる) - 低アルブミン血症:血清アルブミン量3.0g/dl以下
(血清総蛋白量(TP)6.0g/dl以下) - 脂質異常症
- 浮腫
・1,2は必須条件。
・脂質異常症、浮腫は必須条件ではない。
治療
腎機能を維持に腎不全への進行を防ぐことが重要となる。
ステロイド療法
ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)の免疫抑制作用や抗炎症作用に期待して行う。
経口で連日、大量投与する場合と、静脈内に間欠的に大量に投与するパルス療法を行うこともある。
主な薬剤
・プレドニゾロン
・メチルプレドニゾロン
免疫抑制剤
ステロイド抵抗性の症例に使用する。
主な薬剤
・シクロホスファミド
・ミゾリビン
・アザチオプリン
・ミコフェノール酸モフェチル
利尿剤
浮腫に対して利尿剤が使用される。ルーム利尿約が最も有効とされている。
ループ利尿薬
・フロセミド/ラシックス
血圧コントロール
腎臓の保護のために、降圧剤を使用する。
慢性腎臓病(CKD)と同様に、RAS阻害薬が有効とされており、ACEやARBの使用が推奨されている。
RAS阻害薬 | |||
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ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬 | ・カプトプリル(カプトリル) ・エナラプリル(レニベース) | ||
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体)拮抗薬 | ・ロサルタン(ニューロタン) ・オルメサルタン(オルメテック) ・アジルサルタン(アジルバ) |
また、アルドステロン拮抗薬も尿蛋白減少作用、腎保護作用があり、併用も検討される。
脂質異常の治療
腎保護、心血管疾患予防のため、脂質異常に対しての治療薬を使う。
主な薬
・プラバスタチン
・エゼチミブ
食事療法
水分の貯留とともにNaの排泄も減少する。Naの貯留は浮腫や腎性高血圧の原因となるため、塩分制限が重要となる。
安静
運動負荷は腎臓の血流を低下させ、尿たんぱくを増加させる原因とされている。
ただし、過度な安静は、QOLやADLの低下、特にネフローゼ症候群においては深部静脈血栓症のリスクが増大するなど全身への影響があることから、絶対安静は避けるべきだとされている。