死前喘鳴とは?

死前喘鳴(しぜんぜいめい)とは、終末期に意識レベルが低下し、咽頭や上気道に貯留した分泌物が呼吸に伴って振動することで生じる「ゴロゴロ」「ガラガラ」という呼吸音。
■ 出現時期
- 多くは死亡前24~48時間以内
- 場合によっては数日前から出現することもある
■ 発生頻度
終末期患者の約40~70%にみられる。
高頻度に遭遇する「看取りのサイン」の一つ。
死前喘鳴は、医学的に患者自身に強い苦痛はないとされている。
一方で、その喘鳴音は家族に強い不安を与えやすいため、家族の心理的負担を軽減する関わりが重要とされている。
病態
終末期では、
- 意識レベルが低下
- 咳嗽反射・嚥下反射の低下
- 分泌物の排出困難
が起こる。
その結果、咽頭部に貯留した唾液や気道分泌物が呼吸に伴って振動し、音として聴取される。
重要なのは、気道閉塞や呼吸困難とは異なる現象という点。
死前喘鳴は「苦しくない」のか?
① 意識レベルの低下
死前喘鳴は多くの場合、JCS III桁相当の意識低下状態で出現することが多く、呼吸困難を自覚できる意識レベルにない。
② 努力呼吸を伴わないことが多い
呼吸数は変動するが、肩呼吸や陥没呼吸などの強い呼吸困難を示す所見がないことが多い。
③ 文献的根拠
Moritaら(2008)は、
死前喘鳴を呈した患者の多くが意識低下状態であり、
自覚的苦痛の訴えはほとんど認めなかったと報告している。
Wee & Hillier(2008)も、
「家族の苦痛は大きいが、患者の苦痛とは一致しない」と述べている。
日本緩和医療学会の『呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン(2023)』でも、死前喘鳴は必ずしも患者の苦痛を直接反映するものではないと示されている。
死前喘鳴の症状
- ゴロゴロ音
- 不規則呼吸
- 下顎呼吸を伴う場合あり
- 呼吸回数の変動
- 四肢冷感
- チアノーゼなどの終末期徴候
看護師の観察ポイント
- 意識レベル(JCS・GCS)
- 呼吸様式(努力呼吸・肩呼吸の有無)
- 呼吸数
- SpO₂(必要時)
- 喘鳴音の性状(湿性か乾性か)
- 苦悶表情の有無
- 四肢冷感・チアノーゼ
鑑別すべき状態
努力呼吸や苦悶表情を伴う場合は、急性呼吸困難の可能性を鑑別する。
- 急性肺水腫
- 気道閉塞
- 重度の呼吸困難
- 喘息発作
看護師の基本ケア

1,体位調整
最も侵襲が少なく、まず行うべき介入。
- 側臥位
- 30度程度の頭部挙上
- 分泌物流出を促す体位
仰臥位は音が増強しやすい。
2,口腔ケア
目的は「清潔」ではなく、刺激を最小限にしながら口腔内の湿潤を保つこと。
- スポンジ・ガーゼでやさしく拭き取る
- 深部までの吸引は避ける
- 乾燥のため保湿剤を使用する
過度な刺激は咳反射や迷走神経反射を誘発し、呼吸リズムの乱れや徐脈を招く可能性がある。
3,補液の見直し
終末期の過剰輸液は、分泌物増加の要因となる。
輸液量は500~1000ml/日以下を目安とし、全身状態を評価したうえで医師へ減量を相談する。
4,分泌抑制を目的とした薬物療法
医師の判断により抗コリン薬が使用されることがある。
看護師は、効果や副作用を観察し、医師と連携しながら対応する。
ブチルスコポラミン(ブスコパン®)
- 分泌抑制作用
- 静注・筋注・皮下投与・持続投与可能
- 副作用:口渇、尿閉、せん妄
サクション(喀痰吸引)は必要?
サクションによる強い刺激は、迷走神経反射を引き起こし、徐脈やSpO₂低下、場合によっては呼吸停止を助長する可能性がある。
そのため、無理な深部吸引は推奨されない。
行う場合は、次の原則で実施する。
・咽頭のみ
・短時間
・家族の希望がある場合
家族への関わり

死前喘鳴は、家族にとって強い不安を生む。
このときの看護介入は、グリーフケアの観点からも極めて重要な場面。
グリーフケアとは?
死別後の家族の悲しみや心の変化を見据え、終末期から継続して行う支援。
1,状況を伝える
まずは、「何が起きているのか」を具体的に説明する。
この音は“喘鳴”といって、お別れが近づいたときにみられる自然な変化です。
のどに唾液がたまって、呼吸で振動して音がしている状態です。
2,苦しんでいない可能性が高いことを伝える
家族が最も知りたいのは、「苦しんでいないか」ということ。
そのため、ここは明確に伝える。
今は意識がかなり低下していて、私たちが思うほどの苦しさは感じていないと言われています。
呼吸は不規則ですが、表情も穏やかで、苦しんでいる様子はありません。
3,家族ができるケアを伝える
家族の不安の裏には、「何もしてあげられない無力感」がある。
そこで、家族が関われる役割を提示することが、不安の軽減につながる。
意識がなくても、最後まで耳は聞こえていると言われています。
ぜひそばで、声をかけてあげてください。
きっと安心されると思います。手を握ってあげて下さい。
近年の神経生理学的研究では、意識がないと判断された状態でも聴覚刺激に対する脳の反応が確認されたとの報告がある(Blundon EG, Sci Rep, 2020)。
また、聴覚は他の感覚に比べて比較的最後まで保たれる可能性が示唆されている。
おわりに

死前喘鳴の対応で重要なのは、音を消すことにとらわれすぎないこと。
侵襲的な吸引で負担をかけるのではなく、穏やかな最後の時間を過ごせるよう、家族の不安に寄り添ったケアを大切にしよう。
参考文献
- 日本緩和医療学会.呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン.2023.
- 日本緩和医療学会.がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン.2016.
- Morita T, et al. Support Care Cancer. 2008.
- Wildiers H, et al. J Pain Symptom Manage. 2009.
- Wee B, Hillier R. Palliative Medicine. 2008.

