デエビゴ(レンボレキサント)とは?

デエビゴは、エーザイ株式会社が製造・販売している不眠症治療薬。
オレキシン受容体拮抗薬(DORA)に分類される、新しいタイプの睡眠薬。
2020年に米国FDA、日本では2020年7月に厚生労働省により承認された。
適応は「不眠症の治療」
特に、「入眠障害」「中途覚醒」などの睡眠維持困難型の不眠症に対して有効である。
作用機序

デエビゴの有効成分であるレンボレキサントは、脳の「覚醒スイッチ」をOFFにする働きがある薬で、脳をリラックスさせて自然に眠れる状態に導いてくれる。
この「覚醒スイッチ」を入れているのが、オレキシンという物質。オレキシンが活発に働いていると、人は目が覚めたままの状態を保つ。
レンボレキサントは、このオレキシンの働きをブロックすることで、無理に眠らせるのではなく、自然と眠くなるように手助けする。
つまり、覚醒をゆるやかにOFFにすることで、体と脳を眠りに導いてくれる薬である。
特徴
- 自然に近い睡眠パターンを促す
レム睡眠・ノンレム睡眠の構造を大きく崩さないとされる。 - 依存性が少ない
- 翌日の残眠が比較的少ない
- 筋弛緩作用がほとんどなく、ふらつきにくい
他の眠剤との違い
| 薬効分類 | 薬剤名(一般名) | 商品名 | 主な作用機序 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系(BZD) | フルニトラゼパム ブロチゾラム エスタゾラム | サイレース レンドルミン ユーロジン | 脳を抑制する「GABA」の働きを強くする。 | ・即効性あり ・筋弛緩作用あり ・依存・耐性形成しやすい |
| 非ベンゾジアゼピン系(非BZD) | ゾルピデム ゾピクロン エスゾピクロン | マイスリー アモバン ルネスタ | 脳を抑制する「GABA」の働きを助ける。 | ・BZDより依存性は低いが注意必要 ・作用時間が短めで入眠導入に有効 |
| メラトニン受容体作動薬 | ラメルテオン | ロゼレム | メラトニン(眠りのホルモン)と同じ働きをする。 | ・体内時計を調整 ・入眠困難に特化 ・副作用が少ない |
| オレキシン受容体拮抗薬(DORA) | スボレキサント レンボレキサント | ベルソムラ デエビゴ | 脳を覚醒させるオレキシンの働きを抑制。 | ・自然な眠気を誘発 ・中途覚醒に有効 ・依存性が低い |
ベルソムラとデエビゴの違い

オレキシン受容体拮抗薬(DORA)に分類される「ベルソムラ」と「デエビゴ」の主な違いは作用時間と処方制限。
デエビゴは半減期が長く、中途覚醒や再入眠困難に特に有効とされる一方で、ベルソムラは作用時間が中程度のため、入眠困難や翌朝の眠気を避けたい人に適している。
また、処方日数にも差があり、デエビゴは、一般的な慢性疾患の薬と同様、最長90日まで処方が可能であるのに対し、ベルソムラは「習慣性医薬品」に分類され、30日までの処方制限がある。
そのため、通院頻度の低い患者や慢性不眠の長期管理においては、デエビゴが選ばれやすい要因のひとつとなっている。
| 比較項目 | スボレキサント(ベルソムラ) | レンボレキサント(デエビゴ) |
|---|---|---|
| 製薬会社 | MSD株式会社 | エーザイ株式会社 |
| 日本発売 | 2014年 | 2020年 |
| 半減期 | 約10時間 | 約17〜19時間 |
| 作用時間 | 中等度(6~8時間) | 長め(10時間以上) |
| 入眠効果 | ○ | ○(同等) |
| 中途覚醒改善 | △〜○ | ◎(特に有効) |
| 翌朝の眠気 | やや出やすい | 比較的少なめとされる |
| 高齢者使用 | 有効だが注意(ふらつき・転倒) | 安全性が高く評価されている |
| 依存性 | ほとんどなし | ほとんどなし |
| 特徴 | ・効果に個人差があり ・REM睡眠増加の報告あり ・処方日数制限30日 | ・再入眠・持続効果が高い ・処方日数制限なし |
用法・用量
- 通常、成人には1日1回5mgを就寝直前に経口投与する
効果が不十分な場合、最大10mgまで増量可
主な副作用
- 傾眠(眠気)
- 頭痛
- 悪夢・リアルすぎる夢
- 転倒(高齢者)
- 睡眠麻痺(金縛り)
- 幻覚
- 夜間の記憶障害(健忘)
禁忌・慎重投与
- 重度の肝障害
- 過去に本剤に過敏症の既往がある患者
【慎重投与】
- 睡眠時無呼吸症候群
- 肝機能障害(軽度〜中等度)
- 他の中枢抑制薬(ベンゾジアゼピン系など)との併用
併用注意の薬剤
中等度~強力な「CYP3A阻害薬」
デエビゴは肝臓のCYP3A酵素で代謝されるため、CYP3A酵素の働きが阻害されると、代謝が遅れ、血中濃度が上昇し、過鎮静・強い傾眠・転倒リスクなどの副作用が起こる。
- イトラコナゾール(抗真菌薬)
- ケトコナゾール(抗真菌薬)
- クラリスロマイシン(抗菌薬)
- リトナビル、コビシスタット(抗ウイルス薬)
- エリスロマイシン
- フルコナゾールなど
強力な「CYP3A誘導薬」
逆にCYP3Aを誘導する薬と併用すると、デエビゴの血中濃度が50%以上低下するため、原則併用は避ける。
- リファンピシン(抗結核薬)
- カルバマゼピン(抗てんかん薬)など
参考文献
- エーザイ株式会社「デエビゴ錠 添付文書」(2024年改訂)
- 厚生労働省 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品審査報告書:レンボレキサント」
- Rosenberg R, Murphy P, Zammit G, et al. “Comparison of Lemborexant With Placebo and Zolpidem Tartrate ER for Insomnia Disorder.” JAMA Netw Open. 2019;2(12):e1918254.
- 日本睡眠学会編「不眠症の診療ガイドライン2020」

