薬剤の位置・使い方・効果を把握!

救急カート内には劇薬も多く、薬剤や投与方法を誤れば命に関わる重大な事故につながる可能性がある。
そのため、正確に薬剤を取り出せるよう、物品の位置だけでなく、薬剤の効果と投与方法も確実に把握しておく必要がある。
そこで、急変時に使用する主な16剤の効果と使用方法について解説する。
救急カートにある主な薬剤一覧
<蘇生薬> ・アドレナリン※使用頻度No.1 |
<昇圧剤> ・ノルアドリナリン ・ドパミン ・ドブタミン |
<抗不整脈薬> ・リドカイン ・アミオダロン ・ペラパミル(ワソラン) |
<抗コリン薬> ・アトロピン※使用頻度No.3 |
<抗けいれん薬> ・ジアゼパム ・ミダゾラム |
<副腎皮質ステロイド> ・ヒドロコルチソン |
<アシドーシス補正> ・メイロン |
<カルシウム製剤> ・カルチコール |
<解毒薬(中毒治療薬)> ・ナロキソン ・フルマゼニル(アネキセート) |
<生理食塩水>※使用頻度No.2 ・生理食塩水20ml、50ml、100ml、500ml等 |
蘇生薬
アドレナリン

アドレナリンを『エピ/エピネフリン』や『ボスミン』と呼ぶドクターもいるので注意!
- 商品名
アドレナリン注0.1%シリンジ(1mg1ml)
- 使用場面
心停止(心静止、PEA、VF、パルスレスVT)、アナフィラキシー
『心停止を示す4つの心電図波形とその対応』を詳しく見る- 作用
α・β受容体刺激により、心拍出量増加・血管収縮・気管支拡張
- 用法用量
- 心停止時:1mg(シリンジ1A)原液を3〜5分ごとに静注
- アナフィラキシー時:0.3mgを大腿外側に筋注
昇圧剤
ノルアドリナリン

通称『ノルアド』
- 商品名
ノルアドリナリン注1(1mg/1ml)
- 使用場面
出血性ショック、敗血症性ショック、心原性ショック時の
血圧維持や昇圧- 作用
α1受容体刺激にて強い血管収縮作用あり。血圧を上昇させる。一部β₁作用により心拍出量もわずかに増強させるが、頻脈をきたしにくいという特徴がある。
- 用法用量
- 0.02~0.3γ(㎍/㎏/分)で持続投与
- 生食で必ず希釈して使用!
【例】ノルアド3A(3ml3㎎)を生食47mlで希釈した場合の流量↓↓
<体重50㎏の場合> 投与速度 ガンマ(㎍/㎏/分) 1(mL/h) 0.02 γ 2(mL/h) 0.04 γ 3(mL/h) 0.06 γ 4(mL/h) 0.08 γ 5(mL/h) 0.10 γ 10(mL/h) 0.20 γ 15(mL/h) 0.30 γ
ドパミン(DOA)

- 商品名
・ドパミン塩酸塩点滴静注液600mg/200m
・ドパミン塩酸塩点滴静注液200mg/200mL
・イノバン注200㎎5ml(アンプル)- 使用場面
・ショック(心原性、出血性、敗血症性)
- 作用
ドパミンは、ドパミン受容体、β₁受容体とα₁受容体を刺激し、容量により腎血流量の増加(利尿作用)、心拍出量の増加、血圧上昇の作用を示す。
高用量ではα₁受容体刺激が優位となり、血管収縮により血圧を上昇させる。- 用法用量
- 昇圧が必要なショックは、10γ(10μg/kg/分)くらいから開始する。
(10γは、ドパミン600㎎200mlを40㎏の人で8ml/h、60㎏の人で12ml/h)
- 昇圧が必要なショックは、10γ(10μg/kg/分)くらいから開始する。
ドブタミン(DOB)

- 商品名
・ドブトレックスキット600㎎/200mL
・ドブトレックスキット200㎎/200mL
・ドブタミン塩酸塩点滴静注液600mg/200mL
・ドブタミン塩酸塩点滴静注液200mg/200mL
・ドブタミンシリンジ
・ドブトレックス注200㎎/5ml- 使用場面
・心原性ショック
- 作用
β₁受容体を刺激し、心拍出量を増加させる。
軽度のβ₂作用による血管拡張の影響で血圧は上昇しにくい。- 用法用量
- 持続静注
(シリンジポンプまたは輸液ポンプを使用) - 5γ(5μg/kg/分)くらいから開始することが多い
(5γは、ドブタミン600mg/200mLを40kgの人で約4mL/h、60kgの人で約6mL/h)
- 持続静注
抗不整脈薬
リドカイン

- 商品名
・リドカイン静注用シリンジ
・静注用キシロカイン(アンプル製剤)- 使用場面
心室性頻脈(VT、VF)、頻発し症状を伴う心室性期外収縮(PVC)
- 作用
Naチャネル遮断作用により心筋興奮抑制
- 用法用量
- 1回50~100㎎(1/2A~1A)を原液で、1~2分かけて緩徐に静注
- 効果がない場合、5分後に同量を投与
アミオダロン(アンカロン)

- 商品名
・アミオダロン塩酸塩注150㎎/3ml
・アンカロン注150㎎/3ml- 使用場面
・除細動に反応しない心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(無脈性VT)
・不安定な心室頻拍(VT)・心房細動(AF)・発作性上室頻拍(PSVT)など- 作用
Kチャネル遮断により活動電位延長、抗不整脈作用
- 用法用量
- 心停止【VF・無脈性VT】の場合
初回:300mg(2A)を5%Glu20mlで溶解し静注
追加投与は、150mg(1A)を5%ブドウ糖液10mlで溶解し、静注。 - 心拍あり【VT、AFなど】の場合
150㎎(1A)を5%Glu100mlで希釈し10~15分かけて点滴静注。
維持投与は、900mgを5%Glu 250mLに溶解し、6時間で1mg/min、その後0.5mg/minで維持(合計24時間)
- 心停止【VF・無脈性VT】の場合
ペラパミル(ワソラン)

- 商品名
ワソラン注5mg/2mL
ベラパミル塩酸塩注5mg/2mL- 使用場面
・頻脈性不整脈
特に上室性頻拍(PSVTなどQRS幅が狭い頻脈)に有効。- 作用
カルシウムチャネル遮断により房室伝導を抑制
- 用法用量
- 5mg(1A)を2~3分かけて緩徐静注
- 生食20mlや100mlに希釈して投与することも
- 効果不十分時は10~15分後に5~10mgを追加
- 最大20mg程度まで可
- 高齢者・低体重者は2.5mg(1/2A)から開始が推奨
抗コリン薬(徐脈に対して使用)
アトロピン(硫酸アトロピン)

- 副作用
アトロピン注0.5mg/1mLシリンジ
アトロピン注0.5mg/1mL(アンプル製剤)- 使用場面
・迷走神経反射(ワゴった時)
(採血後、顔面蒼白+徐脈+血圧低下した時など)・徐脈・意識レベルの低下
- 作用
副交感神経遮断により心拍数上昇
- 用法用量
- 0.5mg(1A)を静注
- 3~5分おきに追加投与可能
- 最大3mg(6A)まで投与可
抗けいれん薬
ジアゼパム/ホリゾン

- 商品名
・ホリゾン注10mg/2mL
・ジアゼパム注10mg/2mL- 使用場面
けいれん、てんかん発作
- 作用
GABA作動性により中枢抑制作用
- 用法用量
- 5〜10mg(1/2A~1A)を1~2分かけて緩徐に静注
- 希釈不要
- 必要に応じて追加(1日最大30mg程度)
ミダゾラム

- 商品名
・ミダゾラム注5mg/5mL
・ドルミカム注5mg/5mL- 使用場面
・けいれん
・鎮静(挿管前など)
・不安、苦痛の緩和(心カテ、除細動前など)- 作用
GABA作動性により中枢抑制作用
- 用法用量
- けいれん時は0.1~0.3mg/kg静注
- 鎮静は0.02~0.04mg/kg静注
- 【一般的な希釈方法】
1A10㎎ を生食8mlで希釈し、トータル10mlにする。
1~3mlずつ血圧低下や呼吸抑制に注意しながら投与。
副腎皮質ステロイド
ヒドロコルチゾン

- 商品名
・ヒドロコルチゾン
・サクシゾン
・ソル・コーテフ- 使用場面
・アナフィラキシー
・急性副腎不全
・ショック時の補助- 作用
抗炎症・免疫抑制作用
- 用法用量
- 添付の専用の希釈液または生食2mlで溶解
- 生食で10〜20mLに希釈することもあり
- 1回100〜200mgを静注
- 状況に応じて追加投与
アシドーシス補整薬
重炭酸ナトリウム(メイロン®)

- 商品名
・メイロン
- 使用場面
・代謝性アシドーシス
pH<7.1のCPA、高K血症、中毒時に限り慎重に使用される。- 作用
血中pHの上昇
- 用法用量
- 1回20〜50mL(8.4%液)静注
- 原液投与
カルシウム製剤
カルチコール

- 商品名
カルチコール注射液10mL
- 使用場面
- 作用
カルシウムイオンを補充することで、心筋細胞膜を安定化し、不整脈発生リスクを抑える。
- 用法用量
- 8.5%塩化カルシウム注射液10ml2A(20ml)を5分以上かけ緩徐に静注
- 効果不十分時は5~10分後に追加投与検討
解毒薬(中毒治療薬)
ナロキソン

- 商品名
・ナロキソン塩酸塩静注0.2mg/1mL
- 使用場面
オピオイド(モルヒネやフェンタニル)過量による呼吸抑制・意識障害
- 作用
μ受容体拮抗により鎮痛・呼吸抑制を回復
- 用法用量
- 通常0.2mg(1A)を静注
- 2~3分ごとに必要に応じて追加
- オピオイド系であれば最大2mgまで
- 不明薬、中毒であれば最大10㎎まで診断的投与が可能
フルマゼニル

- 商品名
・アネキセート静注用0.5㎎5mL
・フルマゼニル注射液0.5㎎5mL- 使用場面
ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、ミダゾラムなど)による過鎮静・呼吸抑制
- 作用
ベンゾジアゼピン受容体に拮抗し、中枢抑制を解除
- 用法用量
- 原液0.2mg2mlを30秒以上かけて静注
- 必要に応じて1分間隔で追加投与
- 最大1mgまで
生理食塩水
生理食塩水

- 商品名
生理食塩液
- 使用場面
CPA時の初期対応、ショック時の血管内容量補充、薬剤の希釈・後押し
- 作用
等張性輸液による血管内容量の拡大、循環動態の改善、薬剤投与の補助
- 用法用量
- 状況に応じてボーラス(例:CPA時に500mL急速静注)、または持続点滴
- アドレナリン投与後に生食20mlで後押し など
救急カートの薬剤に関する医療事故【事例紹介】
急変時は、気が動転しやすい上、普段慣れない薬剤を使うため、インシデント・アクシデントにつながりやすい。
過去の事例から学び、同じ過ちを繰り返さないようにしよう!
事例1,ノルアドレナリン(ノルアド)希釈指示があったが、誤ってアドレナリン1mgを生食に希釈し、持続投与開始してしまった。
徐々に頻脈・高血圧が出現、ポンプ確認で発覚し、投与中止。幸い重篤化せず。
医療安全全国共同行動「薬剤取り扱い事故防止プロジェクト」報告(2021年)より。
事例2,高カリウム血症対応時、本来はカルチコール8.5%10mL(バイアル)×2Aを静注すべきところ、1A(10mL)のみ投与し、効果不十分で不整脈が継続した。
医療事故情報収集等事業 第18回報告書(2022年公表)より。
事例3,PSVT(発作性上室性頻拍)対応時、救急カートから取り出したワソラン注5mg/2mL(アンプル)を、本来2~3分かけて緩徐静注すべきところ、急速ボーラスで押してしまった。
急激な血圧低下と徐脈を引き起こし、緊急対応が必要になった。
医療事故情報収集等事業(医療事故調査制度分)第18回報告書(2022年公表)より。
事例4,医師が「低血糖補正のためブドウ糖投与」を指示していたが、看護師が除脈対応と勘違いして硫酸アトロピン注0.5mg/1mL(アンプル)を、正常心拍患者に静注してしまった。
静注後すぐに心拍数150回/分超、顔面紅潮、血圧上昇(SBP 200mmHg近く)。
意識レベル一時悪化し、降圧剤準備・酸素投与対応が必要となった。
医療事故情報収集等事業(医療機関報告分)第39回報告書(2016年公表)より。
【余談】私が今回気づいたこと
今回、記事を作成するに当たり、長年にわたる私の『勘違い』に気づきました。
それはーー
『ミタゾラム』ではなく『ミダゾラム』
記録にもずっと『ミタゾラム』と書いていて、
「この人、ずっと間違って覚えてるな…」って同僚やドクターに思われていたかもしれません...
アンプルは『ノルアドレナリン』ではなく『ノルアドリナリン』
成分名は確かに『ノルアドレナリン』なのに、なぜ製品名だけ『ノルアドリナリン』にしているのでしょう?ややこしいですよね
参考文献
- 日本救急医学会.JRC蘇生ガイドライン2020.
- 日本救急医学会・日本集中治療医学会合同ガイドライン「敗血症および敗血症性ショックの診療ガイドライン 2020」
- 厚生労働省.医薬品インタビューフォーム各種.
- 医療用医薬品添付文書(PMDA, 2025年4月閲覧)
- Advanced Cardiovascular Life Support (ACLS) Provider Manual, AHA, 2020