迷走神経反射(VVR)とは?
迷走神経反射(Vasovagal Reflex)とは
・緊張
・痛み
・排便
・長時間の立位
などによる体の興奮を鎮めようと、副交感神経(迷走神経)が過剰に働いたことで起こる反応。
心拍数と血圧が急激に低下することで、脳や全身の血流が低下して、悪心や冷汗、一過性の意識消失などの症状を引き起こす。
現場では、迷走神経反射が起きた状態を『ワゴった』と表現することがある。
「ワゴ」は、英語の迷走神経反射「Vasovagal Reflex(バソバーガル リフレックス)」に由来した俗語。
ただし、正式な記録や報告では「迷走神経反射」または「VVR」と表記する。
病態生理
緊張・痛み・排便・長時間の立位など
体は戦闘モード!
これではマズいと、からだは興奮を鎮めようとする。
交感神経の刺激が強すぎると反動で迷走神経(からだのブレーキ)が働きすぎる。
脳虚血・循環血液量の低下により諸症状を引き起こす。
副交感神経と迷走神経の違いを復習♪
副交感神経は、自律神経の一部で、体をリラックスさせる働きをもつ神経系。
心拍数を下げたり、消化を促進したりといった作用がある。
迷走神経は、副交感神経のうちの主要な経路のひとつ(第10脳神経)で、特に心臓・肺・胃腸などの内臓に広く分布している。
つまり、
👉 迷走神経は「副交感神経の一部」
👉迷走神経反射は、一部の副交感神経が過剰に働いた状態
原因

1,採血・注射・点滴時の痛みや恐怖心
血液や針に対する強い恐怖心が誘因となりやすく、特に若年者や初めて採血を受ける人で多く見られる。
一般的には『貧血で倒れた』と誤解されやすいが、実際には血液の量ではなく、自律神経の反射が原因で起きる。
2,長時間の起立
学校の朝礼や式典、満員電車などで長時間立っていると、下肢に血液がたまりやすくなる。これにより心臓へ戻る血液が減り、自律神経が調整しようとする中で、迷走神経が過剰に働くことで、血圧や心拍数が急に下がって失神を起こすことがある。痩せ型の若年者や脱水状態の人に多い。
3,排尿・排便時(排尿失神、排便失神)
夜間トイレでの失神など、特に高齢者や男性に多い。腹圧がかかることで副交感神経が過剰に刺激され、失神を招く。転倒・頭部外傷のリスクが高い。
4,強い緊張やストレス
恐怖・不安・悲しみなどの感情刺激で起こることがある。医療現場では、検査や診断結果の説明時にも見られる。
症状

- 顔面蒼白
- 悪心・嘔吐
- 冷汗
- 視野の狭窄
- めまい・ふらつき
- 動悸、不安感
血圧低下がさらに進行すると…
- 一過性の意識消失(通常は30秒以内)
- 転倒
合併症
- 転倒による外傷(頭部打撲、骨折など)
- 頻回のVVRによる社会生活への影響(医療恐怖、採血忌避)
- 心因性反応の増悪(不安障害、パニック障害など)
重症度分類
明確な国際的重症度分類はないが、以下のように臨床的に分類されることが多い。
軽度 | 前駆症状のみ、意識消失なし |
中等度 | 短時間の意識消失を伴うが自然回復 |
重度 | 意識消失が1分以上持続、外傷や頻回の発作を伴う |
看護師としての対応と治療
急性期の対応
1,意識レベル・バイタルサインの確認
呼名に対する反応、呼吸、顔色を確認。
バイタルは、ひとまず頸動脈・橈骨を触診して、おおよその血圧と脈拍数を把握する。
2,臥位+下肢挙上!(ショック体位)
血液を脳に送りやすくし、意識を回復を促す。
嘔吐リスクがある場合は、側臥位も可。
3,バイタルサインの測定
ここでしっかり、血圧、脈拍、SpO2、体温を測定し、記録する。
徐脈、著しい血圧低下が続く場合には、速やかに医師に報告。
(必要時)酸素投与
SpO₂低下(90%以下)やチアノーゼを認める場合は酸素投与を検討。
(必要時)アトロピン投与
徐脈が顕著(40拍/分以下)で、血圧が持続的に低下し、意識回復が遅れる場合には、医師の判断でアトロピン硫酸塩(0.5mg静注)を投与することがある。
4,衣類・環境の調整
締め付けている衣類を緩める。
観察室や病室に移動し、安静にできる環境を整える。
5,外傷のチェック
転倒時の頭部打撲や手足の骨折、擦過傷などを観察。
高齢者では特に後頭部・仙骨部の皮下出血や骨折に注意!
6,経過観察
意識回復後も15~30分はバイタルと意識レベルをモニタリングする。
繰り返す場合や重症例の対応
- 内科や循環器科での精査を勧める。
- ホルター心電図や起立試験などの追加検査を検討。
看護師国家試験【過去問】に挑戦!
■ 第107回(2018年)出題
問題:
20歳の女性。健康診断の採血中に顔面蒼白となり、意識を消失した。すぐに意識は回復し、バイタルサインも正常であった。このときの失神の原因として最も考えられるのはどれか。
選択肢:
1.低血糖発作
2.過換気症候群
3.心因反応
4.迷走神経反射
■ 第110回(2020年)出題
問題:
20歳の女性。採血後に「気分が悪くなった」と訴え、冷や汗をかき、顔面蒼白、脈拍56/分、血圧88/60 mmHgであった。このときの対応で適切なのはどれか。
選択肢:
1.腹臥位にする
2.呼吸を促す
3.温罨法を行う
4.仰臥位にして足を挙げる
答え
第107回(2018年)正答: 4.迷走神経反射
第110回(2020年)正答: 4.仰臥位にして足を挙げる
参考文献
- 日本循環器学会. 「失神の診療ガイドライン2022」
- 日本救急医学会. 「救急初期対応マニュアル」改訂第4版, 2020
- Freeman R et al. “Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension, neurally mediated syncope and the postural tachycardia syndrome.” Clin Auton Res. 2011
- 国立病院機構大阪医療センター看護部教育資料「迷走神経反射に関する注意事項」2022年版