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一過性脳虚血発作(TIA)とは?

一時的に脳への血流が低下し、麻痺や痺れ、構音障害など神経学的な症状が一過性に出現する状態を言う。症状は通常24時間以内(多くは1時間以内)に消失し、後遺症を残さない。
しかし、TIAが発生した場合、その後に脳梗塞を発症するリスクが高いとされるため、早急な診断と治療が必要となる。
原因
TIAの主な原因は、一時的な脳の虚血で、原因としては以下の要因が考えられる。
- 動脈硬化
頸動脈や脳動脈の動脈硬化が血流障害を引き起こす。 - 心原性塞栓症
心房細動や弁膜症などにより心臓から血栓が脳に流れる。 - 血圧低下や血流低下
起立性低血圧、心不全、大動脈弁狭窄症などによって脳への血流が不足する。 - 過度な血管攣縮
脳血管が一過性に強く収縮することで起こる。
病態
脳への血流が一時的に遮断されることで、脳細胞が一時的に酸素や栄養を受け取れなくなる。通常、原因となる血栓や塞栓が自然に溶解するため、症状が一過性に消失する。
症状
発症部位により異なるが、以下のような神経学的症状が突然現れる。
- 運動障害
片側の麻痺や脱力(片麻痺)。 - 感覚障害
一側性のしびれ、感覚低下。 - 視覚障害
一過性の視力低下(片眼性または両眼性)。 - 言語障害
構音障害、失語症。 - その他
めまい、ふらつき、意識障害など。
合併症
脳梗塞
TIA後90日以内に脳梗塞を発症するリスクが高い(特に発症後48時間以内)。
再発TIA
適切な治療が行われない場合、TIAが繰り返される可能性がある。
検査
TIAは症状が消失しているため、診断には画像検査や血管評価が重要となる。
画像検査
- MRI(拡散強調画像:DWI)
軽微な梗塞巣を検出可能。 - CT
急性期の脳出血を除外する。
血管評価
- 頸動脈エコー
動脈硬化や狭窄の有無を評価。 - MRAやCTA
脳血管の狭窄や閉塞の有無を確認。
心機能評価
- 心電図
心房細動や不整脈の有無を確認。 - 心エコー
心臓内血栓の有無を確認。
血液検査
- 血糖値、脂質プロファイル、凝固系検査。
診断
診断には以下が必要となる。
1,神経学的症状が、24時間以内に消失する。
2,画像検査で脳梗塞の所見がないこと。
脳梗塞の移行リスクを評価するためには、以下の『ABCD²スコア』を用いる。
この指標は、TIAの診断に直接用いるものではないが、脳梗塞への進展リスクを予測し、対応の優先度を判断するための重要な評価ツールである。
脳梗塞リスクの指標「ABCD²スコア」
| Age 年齢 | 60歳以上 | 1点 |
| Blood Pressure 血圧 | ≧140/90mmHg | 1点 |
| Clinical Features症状 | 片麻痺 | 2点 |
| 言語障害のみ | 1点 | |
| Duration 持続時間 | 60分以上 | 2点 |
| 10~59分 | 1点 | |
| Diabetes 糖尿病 | あり | 1点 |
| 総合スコア | 2日以内の脳梗塞リスク | 推奨される対応 |
| 0~3点 | 低リスク(1%以下) | 外来で精査・フォロー |
| 4~5点 | 中リスク(4~5%) | 迅速な画像検査と専門医評価 |
| 6~7点 | 高リスク(8%以上) | 即日入院 |
治療
TIAは脳梗塞の予防を目的とした治療を行う。
1. 急性期の対応
- 抗血小板薬
- アスピリン(低用量):血小板凝集を抑制。
- クロピドグレル:アスピリン不耐性の場合や効果不十分な場合に使用。
- 抗凝固薬
- ワルファリン、DOAC(ダビガトランなど):心房細動や心原性塞栓症が疑われる場合。
- 血圧管理
- 高血圧を適切に管理する。
2. 長期管理
- 生活習慣の改善
- 禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事。
- 基礎疾患の管理
- 糖尿病、高血圧、高脂血症の治療。
看護計画
長期目標
- 患者が再発予防の重要性を理解し、生活習慣を改善できる。
- TIA再発・脳梗塞発症なく安定した日常生活を維持できる。
- 内服治療を継続し、定期通院ができる。
短期目標
- 発症早期に再発徴候を的確に観察・報告できる。
- 血圧・血糖の管理が適切に実施できる。
- 服薬・検査・通院の必要性を理解できる。
O-P(観察計画)
- 意識レベルの変化(JCS、GCS)
- 神経症状(麻痺、構音障害、視野障害など)
- バイタルサイン(特に血圧)
- 服薬状況の確認
- 不安・ストレス状態の観察
T-P(援助計画)
- 薬剤の内服援助・管理
- 安静指導と転倒予防対策
- 診療や検査への付き添い・説明補助
- 栄養士やリハビリスタッフとの連携
E-P(教育計画)
- TIAの再発予防の重要性
- 生活習慣(減塩、禁煙、運動など)の見直し
- 心房細動や高血圧などリスク因子の管理
- 症状が再発した際の対応(速やかな受診)
参考文献
- 日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』
- Easton JD, Saver JL, et al. “Definition and Evaluation of Transient Ischemic Attack: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association.” Stroke. 2009.

