神経伝達物質であるドパミンの不足により、脳→筋肉に伝わる指令を上手く伝えられず、振戦や固縮などの運動障害を生じる進行性の疾患。
自律神経や中枢神経の病変により、自律神経障害(便秘や起立性低血圧など)や精神障害を伴うこともある。
パーキンソン病は、原因により、孤発性(こはつせい)と家族性に分類される。
原因は特定できないが、遺伝的要因や環境要因などいくつかの要因が重なり、発症すると考えられている。
環境要因のひとつとして、過度な交感神経の緊張(ストレス)が関与すると言われている。
パーキンソン病の90%以上は、この孤発性(いわば原因不明)に分類される。
パーキンソン病の5~10%は、家族性(血縁者)に発症がみられ、遺伝子が関与していると考えられている。
一部の遺伝子異常は発見されているが、いくつかの遺伝子異常や環境要因などの組み合わせによって発症していることも考えられる。
パーキンソン病は、中脳の黒質緻密部(こくしつちみつぶ)にあるドパミン作動性神経細胞が変性・脱落する。この神経細胞は、メラニン色素をもっているため、変性・脱落により色が淡く変色する。
発症時には、このドパミン作動性神経細胞の80%が脱落(壊死)していると言われている。
なぜドパミン作動性神経細胞が減少するかは明らかになっていない。
ドパミン作動性神経細胞が減少することで、神経伝達物質のひとつであるドパミンの産出が低下する。
ドパミンは、主に運動機能をつかさどる線条体へ送られて、運動の調整のほか、快楽の感情、記憶、学習に関与する。
したがって、ドパミンが減少することで、 運動障害、記憶力の低下、意欲・集中力・注意力の低下などを引き起こす。
神経伝達物質は、他の神経伝達物質とバランスをとり合う性質がある。
運動機能は、中枢(脳)の分泌されるドパミンと、運動神経末端から放出されるアセチルコリンのバランスをとることで、細かい運動を調整している。
つまり、ドパミンが減少すると、相対的にアセチルコリンの放出が過剰となり、運動障害を悪化させる結果となる。
パーキンソン病は、脱落した中脳黒質の神経細胞に「レビー小体」という異常なたんぱく質が出現する。
レビー小体が存在する病態は、レビー小体型認知症を含めて「レビー小体病」と呼ばていて、パーキンソン症状(パーキンソニズム)・幻覚・日内変動が特徴的な症状として現れる。
パーキンソン発症後、数年後にに認知症が現れたときには『認知症を伴うパーキンソン病(PDD)』と呼ばれ、それ以前に認知症が現れた場合には『レビー小体型認知症(DLB)』と区別される。
ドーパミンの分泌が低下することで、自律神経系の神経伝達物質であるアセチルコリンやノルアドレナリンのバランスも崩れる。また、自律神経系にレビー小体病変が現れることでも自律神経障害を生じる。
精神障害は、神経伝達物質であるドパミンやセロトニン、ノルアドレナリンの減少が関係していると言われている。
また、認知機能障害や幻覚は、大脳皮質などに広がるレビー小体にも関係する。
パーキンソン病は、完治することのできない進行性の疾患だが、その進行はゆっくりで、発症後10年程は自立した生活が送れことが多い。
その後は日常生活動作に介助が必要となることが多いため、患者のQOLや治療の調整のために、症状の進行度(重症度)を評価することが重要となる。
評価には、ホーン・ヤール(Hoehn-Yahr)分類が広く用いられ、ステージⅠ~Ⅴの5段階に分けて評価する。
stage | ホーン・ヤール分類 | 生活機能障害度 |
---|---|---|
Ⅰ | 症状は一側性で、機能障害はないか、あっても軽度 | Ⅰ度 日常生活、通院にはほどんど介助を要さない |
Ⅱ | 両側性の障害があるが、姿勢保持の障害はない。日常生活、職業には多少の障害はあるが行える | |
Ⅲ | 明らかな姿勢反射障害(突進歩行)があり、活動は制限されるが、自力での生活は可能 | Ⅱ度 日常生活、通院に介助を要する |
Ⅳ | 重篤な機能障害を呈し、自力での生活は困難となるが、まだ支えられずに立つことや歩くことはどうにか可能 | Ⅴ | 立つことも不可能で、介助なしではベットまたは車椅子での生活となる | Ⅲ度 日常生活に全面的な介助を要し、歩行起立不能 |
パーキンソン病の診断は、同じような症状を示すパーキンソン症候群との鑑別が重要となる。
パーキンソン病の4大徴候のうち2つ以上の神経所見があるか確認する。
パーキンソン症状を引き起こす、感染を起こしていないか、薬物・毒物への暴露はないか確認を行う。
脳血管障害などの異常を認めないか確認する。
近年では、ニューロメラニン強調画像・磁化率強調画像といった特殊なMRI検査で、黒質の神経細胞の減少や変化を見ることができるため、パーキンソン症候群との鑑別に有効とされている。
抗パーキンソン病薬であるレボドパ(L-dopa)やアゴニストに対する反応をみる。
パーキンソン病であれば、症状の改善がみられる。
MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)という物質は、交感神経終末から放出される神経伝達物質ノルアドレナリンと同様に、貯蔵・放出される性質をもつ。
パーキンソン病では、このMIBGの心筋への取り込み(集積)が低下するため、ガンマカメラで撮影しながら、その状態を確認する。
パーキンソン病の治療は、薬物療法が基本だが、薬物療法でコントロール困難な場合は、手術療法が適応となることがある。
パーキンソン病治療の中心的な薬のひとつ。
ドーパミンの前駆物質であるレボドパを投与することで、不足したドーパミンを補充することができる。
ただし、レボドパを分解する酵素は、脳以外にも存在するため、脳へ到達する前にほとんどが分解されてしまう。
そこで、脳以外でのレボドパ分解を抑制する薬を配合しているドパミン製剤がある(レボドパ・カルビドパ合剤やレボドパ・ベンセラジド合剤)。
レボドパは内服後、すぐに効果が現れ、ほぼすべての患者へ効果が期待できるが、作用時間が1時間強と短い。
ドパミン受容体に、ドパミンが放出されたときと同じような刺激を与えることで、作用を補うことができる。
レボドパより作用時間が長く、1日1回の内服で効果が持続する薬もある。また、ジスキネジアやウェアリング・オフ現象などの副作用も少ない。
脳内でドパミンを分解するMAO-B(モノアミン酸化酵素B)の働きを阻害することで、ドパミンの放出量を増やす薬。
レボドパと併用することで、レボドパの効果を高めることができ、ウェアリング・オフ現象の改善を図ることができる。
脳内のドパミン放出を促進させる薬。
A型インフルエンザウイルの抗ウイルス薬としても用いられる。
ドパミン不足により、相対的に増強するアセチルコリンの作用を抑制する薬。
振戦の改善目的で投与されることがあるが、知的機能を低下を招く恐れがあるため、使用頻度は少ない。
レボドパを分解するCOMT(カテコール-O-メチル転移酵素)の働きを抑えることで、脳に到達するレボドパ量を増やす薬。
レボドパと同時に服用することで、レボドパの効果を高めることができる。
てんかんの治療薬だったが、ドパミン合成の促進や、ドパミンを分解する酵素MAO-Bの働きを阻害する働きがあることがわかり、パーキンソン病の治療薬として用いられる。
薬物療法でコントロール困難な例は、局所麻酔下で定位脳手術が行われることがある。
脳の異常部に電極を挿入して熱凝固させる『破壊術』と、脳に留置したリード(電極)と前胸部の皮下に埋め込んだパルス発生器を繋ぎ、神経刺激を流す『脳深部刺激療法(DBS)』(←脳のペースメーカーのようなもの)がある。
いずれもパーキンソン症状の改善を期待できるが、DBSは、副作用が少なく、両側に埋め込めること、刺激を体外から調整できるというメリットがあり、現在主流となっている。