ペースメーカーとは?
心臓に人工的に電気刺激を与えて、心臓の収縮をコントロールするもの。
ペースぺーカーはその名の通り『歩調を作るもの』という意味で、本来は心臓の洞結節が『歩調をつくるもの』として働くのだが、何らかの障害で洞結節や刺激伝導系がうまく働かなくなった場合にペースメーカーがその働きを代行する。
ペースメーカーの種類
体外式(一時的)ペースぺーカー…TPM(テンポラリー)
体外に一時的に設置するペースメーカーで、①緊急に治療が必要な場合、②経過とともに完全に回復が見込める場合に使用する。

カテーテル電極(リード)は、右鎖骨下または右鼠径静脈から挿入して、右心房→右心室に留置する。
5~10日程度連続使用できて、その間に植込み型ペースメーカーを挿入したり、正常なリズムに戻ればカテーテルは抜去する。
植込み型(恒久式)ペースメーカー…PPM
永続的に使用するペースメーカーで、胸壁・鎖骨下・腹壁の皮下に本体を埋め込む。

カテーテル電極(リード)は、鎖骨下静脈から挿入し右房や右室(心尖部)に固定される。ペースメーカー本体は、皮膚を4~6㎝切開して皮下に作ったポケットに埋め込む。
ペースメーカーの適応
- 洞不全症候群
- Ⅲ度房室ブロック
- Ⅱ度房室ブロック(モビッツⅡ型)
- めまい・失神・心不全などの症状を伴う徐脈
- 3秒以上の心停止を認める場合
- 脈拍<40回/分を認める場合
ペースメーカーの仕組みと設定
ペーシングコード(ペーシングモード)について
ペースメーカーは、適応となる疾患により異常となる部位が異なるため、心臓を刺激する部位(ペーシング部位)、心臓の刺激を関知する部位(センシング部位)、作動様式を変えて設定する必要がある。
この設定を表すコードはアルファベット3文字で示されるので、このコードが何を示すものなのか覚えておく!

1文字目
ペースメーカーが電気的に刺激する部位を示す=ペーシング部位
A:心房
V:心室
D:心房と心室の両方
2文字目
自己心拍を感知する部位を示す=センシング部位
A:心房
V:心室
D:心房と心室の両方
O:感知機能なし
3文字目
自己心拍を感知したときにペースメーカーがどう反応するのかを示す=作動様式
I:心臓の興奮を感知した場合に、刺激を抑制する
T:心臓の興奮を感知した場合も、同期して刺激を出す(※今は使用されない)
D:IとT両方の機能をもつ。
O:感知機能なし
代表的なペーシングモード
AAI
1文字目…A:心房
2文字目…A:心房
3文字目…I:心臓の興奮を感知した場合に刺激を抑制
つまり、心房のみでペーシングとセンシングを行い、心臓の自発収縮があり、それをペースメーカーが感知すると、予定していたペースメーカーの刺激が抑制される、というモード。洞不全症候群で適応となる。
心臓には、心房に1本のリードが留置される形となる。

VVI
1文字目…V:心室
2文字目…V:心室
3文字目…I:心臓の興奮を感知した場合に刺激を抑制
つまり、心室のみでペーシングとセンシングを行い、心臓の自発収縮があり、それをペースメーカーが感知すると、予定していたペースメーカーの刺激が抑制される、というモード。一時体外ペーシング時に用いられることが多く、徐脈性心房細動(房室ブロック)で適応となる。
心臓には、心室に1本のリードが留置される形となる。

VDD
1文字目…V:心室
2文字目…D:心房と心室
3文字目…D:I(同期)とT(抑制)両方の機能をもつ
つまり、心室でペーシングを行い、心房と心室の両方で心臓の活動をセンシングすることができる。3文字目はDなので、心房収縮を感知するとそれに同期して心室のペーシングを行い、心室収縮を感知すれば、ペースメーカーの刺激は抑制される。洞結節の働きが正常な房室ブロックで適応となる。
心臓には、心室に1本のリードが挿入される形となる。

DDD
1文字目…D:心房と心室
2文字目…D:心房と心室
3文字目…D:I(同期)とT(抑制)両方の機能をもつ
つまり、心房と心室の両方でペーシング・センシングが可能なモードなので、心房と心室の収縮状況に応じて刺激を出すことができる。
慢性心房細動以外のすべての徐脈性不整脈で適応となる。
心臓には、心房用と心室用の2本のリードを留置する形となる。

4文字目の「R」
ペーシングモードの3つのアルファベットの後に、「R」が付く場合がある。これは、運動した後などに心拍数が早くなる生理現象により近づけるために、ペースぺーカーが体動を感知して、設定された刺激回数より刺激回数を増やす機能が付いているということ。
例えば、「VVIR」などと表記されている。
ペースメーカー挿入中の観察と看護
ペーシング状況の確認
- 心電図モニターをみて、設定されたペーシングレートで作動しているか確認する。
- ペースメーカー挿入前と比較し、自覚症状の有無や程度を確認する。
合併症の観察と予防
感染
発熱・ペースメーカー植込み部の腫脹・熱感・疼痛を観察する。
術上肢の血流障害・浮腫
静脈内にリードを通すため、血流障害を起こす可能性がある。
筋攣縮
ペーシングの刺激時に大胸筋が攣縮を起こす可能性がある。
吃逆
横隔神経刺激や横隔膜の刺激で引き起こされる。VVI設定時に多い。
症状が続く場合には、電極の位置を調整したり刺激を弱めるなどの対応が必要となる。
電極・リード線の移動・離脱・断線
リード線は抜去されないような構造をしているが、稀に抜けたり、動いたりしていしまうことがあるため、正しい位置で作動しているか、上記で述べたようにペーシング状況の観察を行う。
気胸・血胸・空気塞栓・心タンポナーデ
鎖骨下静脈の穿刺手技により、稀に重大な合併症を起こす危険性があるため、呼吸状態や全身状態の変化には充分に注意する。
ペーシング不全
ペーシング不全には、①設定の心拍数以下になってもペースメーカーからの刺激がないもの、②ペースメーカーからの刺激はあっても、心房(P波)や心室波形(R波)が見られないものがある。
下の心電図は、VVIモードでみられたペーシング不全で、ペースメーカーからの刺激(心電図波形ではスパイクとして現れる)はあるが、心室の収縮がないのでQRS波が消失している。

原因としては、ペースメーカー本体の故障やリードの異常、ズレ、断線などが上げられる。
センシング不全
P波やR波の信号がうまく感知されないもので、感度が良すぎることで生じるオーバーセンシングと、センシングできなくなったことで生じるアンダーセンシングの状態がある。
<オーバーセンシング>…刺激を感知しすぎる状況。
感知する電位が大きすぎるため、本来存在しない心拍を感知してしまうため、ペーシングして欲しいところでもペーシングが抑制されてしまう。
この場合、感度を下げたり、ジェネレーターを交換する必要がある。

<アンダーセンシング>…刺激を感知しなさすぎる状況
感知する電位が小さすぎて、本来感知しなければいけない自己心拍を感知できないため、余計なペーシングを行ってしまう。
この場合、電極の位置を確認したり感度を上げる、ジェネレーターやリードの交換などの対応を考慮する必要がある。

自己管理状況の確認
- ペースメーカーの作動を確認するために、毎日1分間、自分の脈拍数をカウントしてもらう。
- 緊急時の対応のため、ペースメーカー手帳は常に携帯してもらう。
- 浮腫・めまい・呼吸苦・吃逆などの症状が出現した時には、合併症の可能性があるので、すぐに受診してもらう。
- 定期的な検診を行う。
通常6か月1回、ペースメーカーの電池交換は約10年。 - 電磁波を発生させる場所には近づかず、強い電波を発生する機器の使用は避ける。