大動脈弁狭窄症(AS)

目次

大動脈弁狭窄症とは?

大動脈弁狭窄症の病態イメージ図

大動脈弁狭窄症【aortic(大動脈) stenosis(狭窄):AS】は、左室の出口にある大動脈弁の開きが悪くなり、大動脈に血液を送り出しにくくなった病態。

大動脈弁狭窄症の原因

加齢(主な原因)

動脈硬化による弁の変性や石灰化

先天性な異常

生まれつき大動脈弁が一尖弁や二尖弁
(通常、大動脈弁は半月形の3枚の弁で形成される)

リウマチ性

リウマチ熱の後遺症で心臓弁が変性。少しずつ進行し、年十年後に発症する。
(現在はリウマチ熱の治療法が確立され、減少傾向)

リウマチ熱とは?
A群連鎖球菌(溶連菌)による咽頭炎や扁桃炎の治療が不十分な場合、感染後2~3週間後に発症する全身性の炎症性疾患。
5~15歳の小児に好発し、関節炎・心炎・不随運動(舞踏病)がみられることがある。

大動脈弁狭窄症の病態生理

左心室へ負荷がかかる

大動脈弁狭窄症の病態生理1、左室が強く収縮しようとしているイメージ図

心臓は狭い通路に血液を流すため、普段以上の圧力を発生して血液を送りだそうとする。

大動脈弁狭窄症の病態生理2、左室が筋肉ムキムキ(左室肥大)したイメージ図

その結果、左室の心筋を肥厚させるという代償機能が働き、しばらくは心拍出量は保たれる。
この時、容量負荷はないため、心拡大はほとんど見られない。

心拡大とは、容量負荷により心臓自体の大きさが大きくなること。
心肥大とは、心臓の壁が厚くなること。

心拍出量が低下する

大動脈弁狭窄症の病態生理3、左室が疲れて心拍出量が低下しているイメージ図

大動脈弁の狭窄が進み、心臓に余力がなくなってしまうと、全身への血流が低下し、狭心症、失神発作、心不全などが起こる。

大動脈弁狭窄症の症状

代償機能の働きにより長期間無症状で経過する。
代償機能破綻後に症状が出現するが、症状出現後の予後はかなり不良で、急死することも。  

めまい・失神

脳への血流不足による。

狭心痛

心筋への血流不足により胸痛を生じる

心不全症状

息切れ・浮腫・易疲労感など

大動脈弁狭窄症の検査・所見

聴診

収縮期駆出性雑音

左室がより強く収縮し、左室圧>大動脈圧の圧較差が生まれた結果、大動脈弁を通過する血流の勢いが亢進し、弁上部で発生する乱流により心雑音が生じる。

収縮期駆出性雑音イラスト

この雑音は、頸部に放散し、漸増漸減性(だんだん大きく、だんだん小さくなる)に聞こえる。

Ⅱ音の奇異性分裂

左室の駆出時間が延長するため、肺動脈弁の閉鎖(Ⅱp)より大動脈弁の閉鎖(ⅡA)が遅れて聞こえる。(吸気時よりも呼気時にⅡ音の分裂がはっきりする)

Ⅳ音(過剰心音)の聴取

心肥大により硬くなった心室壁に、心房からの血液が押し込まれた時の振動音。
心尖部、左側臥位で聴きやすい。

Ⅳ音(過剰心音)の聴取

心電図

左室肥大の典型的な所見がみられる。

寝室肥大時の心電図(ST低下と陰性T波)
  • 左室高電位
  • ストレイン型ST-T変化
    (ST低下とT波の陰性化)

胸部X線

上行大動脈の拡大と左大4弓の軽度突出がみられるXp画像
  • 左第4弓(左心室)の軽度突出
  • 上行大動脈の拡大

心エコー

大動脈弁狭窄症は心エコー検査による確定する。
また、弁口面積大動脈弁の通過速度を算出することで、重症度評価が可能。

左室肥大、左室拡大、壁運動の低下も併せて評価できる。

正常軽度中等度重度
弁口面積
(㎠)
3.0~4.01.5以上1.0-1.51.0以下
血流速度
(m/s)
13以下3~44以上
ASの重要度評価

心臓カテーテル検査

カテーテルを大動脈から左心室まで挿入し、大動脈と左心室の圧較差を計測する。圧格差が20~50mmHg程度であれば軽症~中等症。
50mmHg以上であれば重症となる。

左室にカテーテルを出し入れすることで塞栓症のリスクがあるため、圧較差は心エコーで評価することが多い。

大動脈弁狭窄症の治療

薬物療法

軽症な場合は、薬物で全身状態を管理しながら、定期的な心エコーで経過観察する。

外科治療

治療の第一選択となるのが、手術。
症状がある場合や、症状がなくても心機能の低下がある場合には適応となる。

ただし、外科的弁置換術では、開胸し人工心肺を用いて心停止下で弁置換を行う必要があるため、高齢などリスクが高く手術が困難な場合もある。

使用される人工弁は、生体弁と機械弁があり、患者の状態に合わせて選択される。

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)

重症の大動脈弁狭窄症の最新治療として行われているのが、TAVI(タビ)と呼ばれるカテーテル治療。

開胸せずに、大腿動脈や心尖部からカテーテルを挿入し、折りたたまれた人工弁を大動脈弁の位置まで運び留置する。

侵襲が少なく、高齢で外科的治療が困難な重症患者にも有効な選択肢になってきている。

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