看護師が知るべき心音聴取の基本と心雑音

目次

心音聴取の目的

心音は、弁膜症や心筋疾患、先天性心疾患などの有無や性質を評価ための重要な所見となる。

呼吸音や腸音の聴取よりも難易度は高いが、心臓疾患は急激な悪化により命に係わることも多く、異常の早期発見のため、看護師も習得しておきたい技術。

聴診部位

弁が発する心音は、弁を通る血液が流れた先あたりでよく聴きとれる。弁の領域は、胸骨や肋骨の位置関係から覚えておく。(※国試にも出題されています!)

心音の聴取部位

心臓弁の位置は解剖生理『心臓の構造と働き』参照。

  • 大動脈弁領域・・・第2肋間、胸骨右縁(2R)。大動脈弁の閉鎖音であるⅡ音が最も強く聞かれる。
  • 肺動脈弁領域・・・第2肋間、胸骨左縁(2L)。肺動脈弁の閉鎖音であるⅡ音が聞かれる。
  • エルブ(Erb)領域・・・第3肋間、胸骨左縁(3L)。大動脈弁狭窄症や僧帽弁逆流症などの弁膜症が発する心雑音が聴きやすい。
  • 三尖弁聴診部・・・第4ー5肋間胸骨左縁(胸骨下端部)。三尖弁が閉じるときにⅠ音が聞こえる。右心室の機能不全や三尖弁疾患の場合に異常音が聴取される。
  • 僧帽弁聴診部・・・心尖部(胸骨左縁、第5肋間)。僧帽弁の閉鎖音であるⅠ音が最も強く聞かれる。

聴診器の使い方

聴診器の特徴と使い方

ベル側

低音向きで、過剰心音であるⅢ音やⅣ音、大動脈弁閉鎖不全症(AR)時に心尖部で聴かれるAustin Flint雑音の聴取に適している。
強く胸壁に当てると高音も聴きやすくなる。

膜側

高音向きで、正常心音であるⅠ音やⅡ音や心雑音の聴取に適している。

心音の聴取は、患者の呼吸状態や体位によって聴取される音が変わることがあるため、異なる条件下での聴診も重要である。患者に深呼吸をしてもらったり、体位を変えて聴診することで、特定の心音や心雑音を明瞭に捉えることができる。

周期的な収縮・拡張にともなう正常な心音

周期的な収縮と拡張にともなう正常な心音

Ⅰ音(S1)

心臓が収縮を始めると逆流しないように房室弁である僧帽弁と三尖弁が閉じる。この時に生じる音がⅠ音

房室弁が閉じた直後には、大動脈弁が開き、血液が全身に送り出される。

心尖部で聴取すると、Ⅱ音よりⅠ音の方が大きく聞こえる。心基部に移動するにつれて、大動脈弁領域に近づくのでⅠ音よりⅡ音が大きくなる。

Ⅱ音(S2)

大動脈弁と肺動脈弁が閉じる際に生じる音

この直後に房室弁は開き、心室に血液が流れ込んで心臓が拡張する。
Ⅱ音は、よく聞くと大動脈弁の閉鎖音(ⅡA)と肺動脈弁の閉鎖音(ⅡB)があり、分裂して聞こえるときもあるが、ほぼ同時に発生している。

Ⅰ音とⅡ音の聞き分け方
よほどの頻脈でない限り、間隔が短い方がⅠ音~Ⅱ音、間隔が長い方がⅡ音~Ⅰ音。心臓をイメージしながら聴診してみると、こんな一瞬で拍出しているのかと驚くくらいⅠ音~Ⅱ音は短い。(※個人的な感覚です)
それでも区別がつかない場合は、頸動脈に触れ、拍動のタイミングで聴こえるのがⅠ音と判別できる。

心音から異常を見つける①過剰心音

Ⅰ音・Ⅱ音以外に「別の短い音」が聞こえる場合がある。これは過剰心音とよばれ、「異常」があることを示す。

Ⅲ音(S3)

過剰心音Ⅲ音の発生機序

拡張初期に、大量の血液がいっきに流れ込んで、心室の壁にぶつかる音

通常、柔らかい心筋が血液を受け止めるため、聞こえないのだが、心拡大(←左心不全の徴候)により心室内腔が拡大し、伸びが悪くなると、硬い壁に『ドン』とぶつかる様な低い音が発生する。

若年者(30歳以下)や妊娠期など生理的に血流量が増えることでも生じる場合もあるため、病的なものか鑑別は必要!

聴こえるのは、拡張初期なので、Ⅱ音のすぐあと。

過剰心音Ⅲ音のリズム

覚えやすいリズムとしては、『オッカサン、オッカサン…』とよく表現される。また、馬がかけている様な音から、奔馬腸音(ほんばちょうおん)とも呼ばれている。

実際にⅢ音を聴く→かんテキWebへ

Ⅳ音(S4)

過剰心音Ⅳ音の発生機序

拡張終期に、心房が最後の一押しで頑張って血液を送ったときに、心室で発生する振動音。心房音とも呼ばれる。
これは、心室の伸展性が悪い時(心筋梗塞や心不全)に発生する。

聴こえるのは、拡張後期なので、Ⅰ音の前。

過剰心音Ⅳ音のリズム

リズムとしては、Ⅲ音が『オッカサン』に対し、Ⅳ音は『オトッツァン、オトッツァン…』のリズムと覚えておく。

心房細動の人は、もともと心房が収縮しないため、Ⅳ音は聴こえない。

心音から異常をみつける②心雑音

心臓弁の狭窄や逆流がある場合に、長めの雑音が聴取される。
看護師として覚えておきたいのは、以下3つの心雑音。

収縮期駆出性雑音

収縮期駆出性雑音

心臓の収縮期、つまり僧帽弁と三尖弁が閉じ、大動脈弁と肺動脈弁が開放されているⅠ音とⅡ音の間に聴こえる。

この雑音は、血液を狭窄した弁から駆出しようとする際に発生するため、主に大動脈弁狭窄症(AS) で聴かれる。

聴取部位としては、心尖部よりも大動脈弁領域(R2)~肺動脈弁領域(L2)で聴取されやすく、徐々に大きくなって徐々に小さくなるダイヤモンド型に聞こえるのが特徴

実際に収縮期駆出性雑音を聴く→かんテキWebへ

収縮期逆流性雑音

収縮期逆流性雑音

心臓の収縮期、つまりこちらもⅠ音からⅡ音の間に聴こえる雑音。
この雑音の特徴として、本来は閉じるべき僧帽弁または三尖弁が完全に閉じずに、血液が逆流することで発生する僧帽弁逆流症三尖弁逆流症などの弁膜症で聴かれる。

この雑音の特徴としては、音量はほぼ一定に聴こえる。

実際に収縮期逆流性雑音を聴く→かんテキWebへ

拡張期雑音

拡張期雑音

拡張期、つまり、Ⅱ音からⅠ音の間で発生する雑音で、閉まるべき大動脈弁と肺動脈弁からの逆流や、開放されるべき僧帽弁や三尖弁の狭窄によって生じる。

この拡張期に聞かれる雑音のほとんどは大動脈弁閉鎖不全症(AR)によるものであり、胸骨の左縁、第3~4肋間でⅡ音に続き風が吹くようにに聴こえるのが特徴。

『ドッヒュー』『ドッパー』という感じで聴こえる。

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心雑音の強度分類

心雑音の強さは、Levine(レバイン)分類により1~6段階で評価される。

グレード聴診器による聴取レベル
注意深い聴診で聴取できる
弱いが聴診器をあてるとすぐに聴取できる
容易に聴取できる
スリルを伴う高度の雑音
スリルを伴い、非常に強い雑音。聴診器を胸壁から離すと聴こえない
聴診器を胸壁から離しても聴こえる
レバイン分類
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