赤沈(ESR)とは?
赤血球沈降速度(ESR)のことで、試験管に入れた血液中の「赤血球」が沈む速さを測る検査。
それで何がわかるのかと言うと、通常、赤血球同士は反発し、ゆっくり沈むのだが、炎症や免疫異常がある場合には、血しょう中のタンパク(フィブリノーゲンや免疫グロブリンなど)が増加し、赤血球が凝集するため、まとまって沈みやすくなる。
つまり、『赤血球が早く沈む(ESRが亢進する)』ほど、『炎症が強い』と判断できる。
ESRの測定方法
ウエスタングレン法

- 赤沈専用スピッツから専用の測定管(ウエスタングレン管←内径2.5㎜、長さ300㎜の細いガラス管)に血液を移す。
- 垂直に立てて1時間放置
- 赤血球と血しょう分離するので、上部の血しょうの高さ(㎜)を測定
なぜ赤血球層ではなく、血しょう層を測定するのか?
赤い赤血球層は『完全に沈降した赤血球』と『浮遊している赤血球』混在するため、境目がわかりにくい。そのため、赤血球の沈降に比例して増えて、境目もわかりやすい『血しょう』を測定する。
赤沈検査の適応と目的
①炎症性疾患の評価
- 関節リウマチ(RA)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 多発性筋炎・皮膚筋炎
②感染症の評価
③悪性腫瘍のスクリーニングや経過観察
- ホジキンリンパ腫
- 多発性骨髄腫
④血管炎や膠原病の評価
- 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
- 高安動脈炎
⑤その他慢性疾患の経過観察
赤沈の検査結果の見方
ESRの正常値
年齢・性別 | 基準値(㎜/時) |
男性 | 2~10 |
女性 | 3~15 |
高齢者(60才以上) | 10~20 |
ESRが速い=亢進している場合
以下の慢性炎症や感染症では、血漿中のタンパク質(特にフィブリノーゲンや免疫グロブリン)が増加するため、赤血球が凝集し速く沈む。
- 炎症性疾患(関節リウマチ、SLE、血管炎)
- 感染症(肺炎、結核、心内膜炎)
- 悪性腫瘍(多発性骨髄腫、リンパ腫、固形がん)
- 貧血(鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血)
- 腎疾患(慢性腎不全、ネフローゼ症候群)
- 妊娠・月経(生理的な上昇)
急性感染症はESRは上昇しないの?
風邪のような急性炎症では、フィブリノゲンの増加が軽度であり、免疫グロブリンの増加もほとんどないため、ESRはほとんど上昇(亢進)しない。
採血時のポイント
赤沈スピッツ基本的にESR専用!
通常、キャップがオレンジ色の赤沈専用のスピッツを用いる。
採血量は2mlで、抗凝固剤としてクエン酸ナトリウム入っている。
一部の施設では炎症マーカー(CRP)や凝固関連(フィブリノーゲン)の測定にも用いることがある。
赤沈は早めに採取!凝固があれば凝固の次!
標準的な採血順は以下の通り。
(血培)→凝固(黒)→赤沈(オレンジ)→生化学(茶)→ヘパリン(緑)→血算(紫)→血糖(灰)
凝固は、他の凝固剤(EDTAやヘパリン)の影響を受けやすいことや、適切な血液量を確保する必要があるため、最優先で採取する必要がある。
赤沈(ESR)も、他の抗凝固剤の影響を受ける可能性があるため、早めに採血する必要がある。また、駆血や複数回の採血によって赤血球の状態が変化し、沈降速度が変わることがあるため、正確な測定のために早めに採血することが望ましい。
採血後、転倒混和する!
採血後はすぐに8~10回、ゆっくり転倒混和し、抗凝固剤と混ぜ合わせる。
強くふると溶血の原因になるため注意!
以下、参考までに採血後【転倒混和が必要なスピッツ一覧】
採血スピッツ | 添加剤 | 主な検査項目 | 転倒混和回数(目安) |
---|---|---|---|
凝固検査 | クエン酸ナトリウム | PT、APTT、フィブリノゲン | 3~5回 |
赤沈(ESR)検査 | クエン酸ナトリウム | 赤血球沈降速度(ESR) | 5~10回 |
血算(CBC) | EDTA-2Na / EDTA-K2 | 赤血球数、白血球数、Hb、Ht、血小板数 | 8~10回 |
血糖検査 | フッ化ナトリウム + EDTA | 血糖(グルコース)、糖負荷試験 | 8~10回 |
血液ガス検査 | ヘパリンNa / ヘパリンLi | 血液ガス(pH, pCO₂, HCO₃⁻) | 3~5回 |
採血後1~2時間以内に測定が望ましい!
採血後、時間がたちすぎると赤血球が変形して沈み方が変わってしまう。
採血後は室温で保存する
赤沈は冷蔵だと赤血球が沈みにくくなり(ESR低下)、高温では沈降は早くなりすぎる(ESR上昇)可能性があるため、室温18~25度で保存する。
参考文献
- 日本臨床検査標準協議会(JCCLS). 「血液検査基準」, 2023年版.
- 日本リウマチ学会. 「関節リウマチ診療ガイドライン」, 2022年.
- McPherson, R. A., & Pincus, M. R. “Henry’s Clinical Diagnosis and Management by Laboratory Methods”, 24th ed., Elsevier, 2022.
- Tietz, N. W. “Fundamentals of Clinical Chemistry and Molecular Diagnostics”, 8th ed., Elsevier, 2023.