関節リウマチ(RA)とは?
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)は、主に関節に炎症が生じる自己免疫疾患。関節の滑膜と呼ばれる組織に慢性的な炎症を呈し、進行することで関節破壊や機能障害を引き起こす。
男女比は1:3~4と女性に多く、30~50歳代で発症しやすいが、どの年代でも発症する可能性がある。
原因
関節リウマチの明確な原因は不明であるが、以下の要因が関与していると考えられている。
- 遺伝的要因:HLA-DR4、HLA-DR1といった特定の遺伝子がリスクを高める。
- 環境的要因:喫煙、感染症(EBウイルスなど)、細菌叢の異常。
- ホルモン要因:女性ホルモンの関与が示唆されている。
- 自己免疫異常:免疫系が自己組織を攻撃することで炎症が起こる。
病態

健康な関節では、関節包の内側に滑膜があり、関節液を分泌して骨と軟骨を保護しているが、関節リウマチでは、滑膜に炎症を起こし、以下のような変化が生じる。
滑膜炎の発症

免疫細胞(T細胞やB細胞、マクロファージなど)が自己免疫の異常により活性化され、炎症性サイトカインを多量に放出する。これにより滑膜に炎症が起こり、滑膜がダメージを受ける一方で、修復を試みる過剰な反応が続くため、滑膜が肥厚する。
パンヌスが軟骨を破壊

炎症により増殖した滑膜は、異常な肉芽組織「パンヌス」を形成する。このバイヌスは、炎症性サイトカインや酵素(MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ)を放出することで軟骨を分解しながら破壊していく
その結果、関節腔が狭くなり、痛みや関節の変形、さらには機能障害を引き起こす。
骨びらんによる関節破壊

軟骨が完全に破壊されると、バイヌスはさらに下の骨までも分解・破壊していく(骨びらん)。
また、炎症によって骨を溶かす作用をもつ破骨細胞が活性化し、骨びらんはさらに進行する。
この結果、関節の指示構造が失われて、関節変形や機能障害を悪化させる。
症状
関節症状
- 朝のこわばり:朝起床時に関節がこわばり、30分以上続くことが特徴的。動かすことで改善する。
- 腫脹:手関節、MCP関節、PIP関節、MTP関節などの中小関節に発生しやすく、左右対称に発生するのが特徴。

- 関節痛:運動時や圧迫時に痛みが生じる。
- 関節の変形:炎症が慢性化し進行すると、関節破壊や変形が起こる。
- ボタンホール変形(PIP関節の屈曲+DIP関節の過伸展)
- スワンネック変形(PIP関節の過伸展+DIP関節の屈曲)
- 尺側偏移(手指が尺骨側に偏る)
- 外反母趾と槌趾(MTP関節の過伸展+PIP関節の屈曲)

全身症状
- 倦怠感、発熱、体重減少。
- 貧血や炎症に伴う血小板増加。
- 血管炎、間質性肺炎、心膜炎などの臓器障害を伴う場合がある。
合併症
- 関節の破壊:進行することで関節機能が完全に失われる。
- 感染症:免疫抑制薬の使用により感染リスクが上昇する。
- 間質性肺炎:疾患自体または薬剤(メトトレキサート)の副作用として発症。
- 心血管疾患:慢性炎症が動脈硬化を促進。
検査
血液検査
- 炎症マーカー:CRP上昇、ESR(赤沈)亢進。
- リウマトイド因子(RF):陽性(約70~80%)。高値の場合、疾患活動性が高い可能性あり。
- 抗CCP抗体:高い特異度(診断に有用)
- 貧血や白血球増加も見られることがある。
赤沈(ESR)はどんな検査?
「慢性的な炎症や免疫異常があると赤血球が早く沈む」ことを利用した検査で、赤血球が早く沈むほど炎症が強いとわかる。
画像検査
- X線検査:骨びらん、関節間隙の狭小化。
- MRI:滑膜炎や骨びらんの早期検出。
- 超音波検査:関節液の増加や滑膜肥厚を確認。
診断
アメリカのリウマチ学会(ACR)とヨーロッパのリウマチ学会(EULAR)が共同で作成した「ACR/EULAR関節リウマチ分類基準」に基づき、スコアの合計が6点以上で関節リウマチと診断される。
カテゴリー | 項目 | スコア |
---|---|---|
1. 関節の関与 (Joint involvement) | 1つの大関節(肩、肘、股関節、膝、足首) | 0点 |
2~10の大関節 | 1点 | |
1~3の小関節(大関節を含まない) | 2点 | |
4~10の小関節(大関節を含まない) | 3点 | |
10以上の関節(少なくとも1つが小関節) | 5点 | |
2. 血清学的異常 (Serology) | RF陰性、抗CCP抗体陰性 | 0点 |
RFまたは抗CCP抗体が低値(正常値の上限を超えるが2倍以下) | 2点 | |
RFまたは抗CCP抗体が高値(正常値の2倍以上) | 3点 | |
3. 急性期反応 (Acute-phase reactants) | CRPと赤沈(ESR)が正常 | 0点 |
CRPまたは赤沈が異常値 | 1点 | |
4. 症状の持続期間 (Duration of symptoms) | 6週間未満 | 0点 |
6週間以上 | 1点 |
関節破壊の進行度分類
関節リウマチは進行度に応じて、4つの病期(ステージ)に分けられる。
ステージ | 定義 |
---|---|
ステージⅠ (初期) | 関節のX線検査で骨の破壊はなく、滑膜の腫れや骨の硬化が見られる。 |
ステージⅡ (中期) | X線検査で軟骨や骨の破壊が見られるが、関節変形はまだ進行していない。滑膜の肥厚が進み、関節の可動域が一部制限される。 |
ステージⅢ (進行期) | 骨の破壊が進行し、関節変形が明らかになる。関節の機能障害が顕著で、日常生活動作(ADL)に支障をきたす。 |
ステージⅣ (末期) | 完全な関節破壊が起こり、関節が使用不可能となる。筋力低下や、関節外症状も見られる場合がある。 |
機能障害による分類
アメリカリウマチ学会(ACR)のクラス分類では、機能障害の程度(ADLの支障度)を4つのクラスで評価する。
クラス | 定義 |
---|---|
クラスⅠ (正常) | 日常生活動作(ADL)、職業活動、余暇活動を制限なく行うことができる。 |
クラスⅡ (軽度障害) | 通常の自己管理や職業活動は行えるが、余暇活動や趣味などの活動が制限される場合がある。 |
クラスⅢ (中等度障害) | 通常の自己管理は行えるが、職業活動や余暇活動を含む他の活動に支障をきたす。 |
クラスⅣ (高度障害) | 自己管理も含め、すべての活動が制限される。ベッド上で過ごす時間が多く、介助を必要とする場合がある。 |
治療
薬物療法
メトトレキサート(MTX)
関節リウマチ治療の第一選択薬で、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の一つ。
免疫細胞の増殖や活性化に使われるビタミン「葉酸」の代謝を阻害することで、免疫細胞の異常な増殖や炎症反応を抑える作用がある。
また、他の治療薬(生物学的製剤やJAK阻害薬)と併用することで相乗効果が期待できる。特に、併用により関節破壊の進行を遅らせる効果がある。
主なMTX | 分類 | 投与方法 | 投与間隔 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
リウマトレックス | 従来型DMARDs(csDMARDs) | 経口内服 | 週1回 | 胃腸障害(悪心、嘔吐、下痢)、肝機能障害、口内炎、骨髄抑制(貧血、白血球減少)、間質性肺炎、葉酸欠乏症 |
メトジェクト | 従来型DMARDs(csDMARDs) | 皮下注射 | 週1回 | 胃腸障害(悪心、嘔吐、下痢)、肝機能障害、口内炎、骨髄抑制(貧血、白血球減少)、間質性肺炎、葉酸欠乏症 |
生物学的製剤
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の一つ。
炎症の原因となるサイトカイン(TNF-α、IL-6など)や特定の免疫細胞を直接抑制する作用がある。
単独でも効果があるが、前述したメトトレキサート(MTX)と併用することで、より高い効果が期待できる。
感染症リスクの増加などの副作用に注意が必要。
主な生物学的製剤 (商品名) | 分類 | 投与方法 | 投与間隔 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
エタネルセプト (エンブレル) | 抗TNF-α抗体 | 皮下注射 | 週1~2回 | 感染症(結核の再活性化、敗血症、肺炎など)、注射部位反応、アレルギー反応、血液障害、神経系障害、心不全 |
アダリムマブ (ヒュミラ) | 抗TNF-α抗体 | 皮下注射 | 2週ごと | 感染症(結核の再活性化、敗血症など)、注射部位反応、アレルギー反応、発熱、倦怠感 |
トシリズマブ (アクテムラ) | 抗IL-6受容体抗体 | 点滴静注または皮下注射 | 点滴:4週ごと 皮下:週1回 | 感染症(呼吸器感染症など)、肝機能障害、高脂血症、好中球減少、注射部位反応 |
インフリキシマブ (レミケード) | 抗TNF-α抗体 | 点滴静注 | 初回、2週後、6週後、その後8週ごと | 感染症(結核、真菌感染症など)、注射部位反応、アナフィラキシー、心不全増悪 |
セルトリズマブ (シムジア) | 抗TNF-α抗体 | 皮下注射 | 初回、2週後、4週後、その後2週ごと | 感染症(結核、肺炎など)、注射部位反応、アレルギー反応、好中球減少 |
アバタセプト (オレンシア) | 抗T細胞活性化薬 | 点滴静注または皮下注射 | 点滴:初回、2週後、4週後、その後4週ごと 皮下:週1回 | 感染症(肺炎、尿路感染症など)、注射部位反応、アレルギー反応、悪心、頭痛 |
JAK阻害薬
細胞内のシグナル伝達経路(JAK-STAT経路)を阻害し、炎症性サイトカインの産生を抑える作用を持つ疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)。
内服薬であり、注射が必要な生物学的製剤よりも利便性が高い。
主なJAK阻害薬 (商品名) | 分類 | 投与方法 | 投与間隔 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|
トファシチニブ (ゼルヤンツ) | JAK1/3阻害薬 | 経口内服 | 1日2回 | 感染症(肺炎、帯状疱疹など)、血栓症、肝機能障害、脂質異常症、好中球減少 |
バリシチニブ (オルミエント) | JAK1/2阻害薬 | 経口内服 | 1日1回 | 感染症(肺炎、帯状疱疹など)、血栓症、肝機能障害、脂質異常症、好中球減少 |
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
関節リウマチの治療において、痛みや炎症を一時的に抑える目的で使用される薬剤。
炎症性サイトカインやプロスタグランジンの生成を抑えることで、痛みや腫れを軽減する。
疾患そのものの進行を抑える効果はなく、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)と併用して使用される。
胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要。
ステロイド(グルココルチコイド)
強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持つ薬剤。
急性期の関節リウマチ症状の緩和や、他の治療薬が効きにくい場合の補助的治療として使用される。
短期間で関節の痛みや腫れを迅速に軽減できるが、長期使用は副作用(骨粗しょう症、糖尿病、感染症リスクの増加など)のリスクが高まるため、必要最小限の使用が推奨される。
非薬物療法
- リハビリテーション:関節可動域を維持する運動療法や物理療法。
- 生活指導:関節への負担軽減、栄養管理。
手術療法
重度の関節破壊がある場合、人工関節置換術や滑膜切除術を行う。
看護計画
長期目標
- 病状の進行を抑制し、ADL(日常生活動作)を維持する。
- 痛みの軽減とともにQOLを向上させる。
- 関節の機能を可能な限り保持し、患者が自己管理を習得する。
短期目標
- 疼痛や関節の腫脹が軽減する。
- ADLの支障が少なくなり、日常生活における自立性が向上する。
- 患者が治療や自己管理に対する理解を深める。
O-P(観察計画)
- バイタルサイン(発熱、脈拍、血圧、SpO2)
- 呼吸状態
- 関節の腫脹・痺れ・変形や拘縮の部位と範囲
- 関節痛の有無と程度
- 朝のこわばり感の有無・持続時間
- 全身症状(発熱、倦怠感、易疲労、食欲不振、体重減少)の有無
- ADL(日常生活への支障の有無)
- 血液データ
・炎症反応:CRP、ESR(赤血球沈降速度)
・リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体
・肝機能や腎機能(薬剤の副作用を考慮) - 薬物療法の副作用(肝機能障害、間質性肺炎、感染症)の有無
- 患者の精神状態
・ボディイメージの変化
・疾患への理解度
・疼痛や疾患への不安や抑うつの有無
T-P(援助計画)
- 適切な薬物療法の援助
- 疼痛コントロール
・医師の指示に基づき、鎮痛剤を使用。
・温罨法や冷罨法 - 日常生活支援
・患者のADLや疼痛に応じて介助 - リハビリテーションの支援(関節の柔軟性を保つ運動)。
- 関節の負担軽減する自助具の提案
E-P(教育計画)
- 関節リウマチの進行メカニズムと治療の目的を説明。
- 薬物療法の重要性と副作用の観察点を伝える。
- 疼痛時や症状悪化時には早期に医療者へ報告するよう促す。
参考文献
- 日本リウマチ学会「関節リウマチ診療ガイドライン2020」
- Smolen, J. S., et al. (2016). “Rheumatoid arthritis.” The Lancet, 388(10055), 2023-2038.
- UpToDate: “Treatment of rheumatoid arthritis in adults.” Accessed January 2025.