疥癬とは?
疥癬は、ヒゼンダニという寄生虫が皮膚に寄生することで引き起こされる感染症。
皮膚の角質層に潜り込み、その中に卵を産み付けたり、糞をするため、人間の体は免疫反応を起こし、強いかゆみや皮膚炎が生じる。感染力が強く、医療機関や介護施設での集団感染も珍しくない。
ヒゼンダニの生態について
ヒゼンダニは、人や動物の皮膚に寄生しなければ2~3時間で死滅してしまう寄生虫で、自然界で生きられない。大きさは、0.2㎜~0.4㎜程で、髪の毛の太さと同じくらいのため、肉眼では見えにくい。
ヒゼンダニがどのように寄生し、増殖するかというと、メスのヒゼンダニが皮膚に付着すると、メスは角質層(皮膚の一番外側の表皮)に潜り込む。そして、角質層に通り道となるトンネル(疥癬トンネル)を掘りながら1日に2~3個ずつのペースで、1ヶ月産卵を続ける。
卵は、3~4日で孵化し、幼虫は皮膚表面に移動して成長し、成虫となる。オスの成虫はメスを探して交尾し、交尾を終えたメスは、再び角質層に潜り込み、疥癬トンネルを掘りながら卵を産む。
これを繰り返すことでヒゼンダニは増殖し、皮膚症状が広がっていく。
感染経路
疥癬は主に接触感染。
通常、患者と長時間肌が触れ合うような状況で感染することが多い。
ただし、後述する角化型疥癬の場合、寄生するダニの数が圧倒的に多いため、衣類やタオルを介して間接的に感染したり、落屑した皮膚の飛散でも感染を引き起こす。
疥癬の症状
強い掻痒感
特に夜間にかゆみが強くなることが多い。
発疹
手指の間、手首、肘、脇の下、乳房、腰部、腹部、股間、足指などに赤い丘疹や水疱が見られることが多い。
疥癬トンネル
手掌、指間、手関節、臍などの皮膚表面に見られる5㎜~1㎝程の小さな線状の跡で、疥癬に特有の症状。
診断のポイントにもなる。
疥癬の種類
通常型疥癬
前項で示したような一般的な症状を伴うタイプ。ヒセンダニの数は数十匹以下で感染力が比較的低く、感染後、約1~2ヶ月の潜伏期間をおいて症状が現れる。
皮膚の接触が主な感染経路。
角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
免疫力が低下した患者に見られることが多く、100万~200万匹のヒゼンダニが皮膚に寄生し、重度で広範囲な皮膚症状を引き起こす。
非常に感染力が強く、衣類や寝具、タオルを介して間接的に感染したり、飛散した落屑で感染することもある。
診断方法
皮膚を掻破して顕微鏡でヒゼンダニやその卵を確認することで診断できる。
具体的な方法としては、医師がメスや注射針で皮疹部を削り、シャーレなどの容器へ一旦移し、それを鏡検する。
治療方法
外用薬
スミスリンローション5%【フェノトリン】
2014年に承認された比較的新しい薬。プレストロイド系殺虫剤で、効果が高く毒性が低い。
使用方法:1回1本(30g)を1週間間隔で少なくとも2回塗布。
硫黄軟膏【5~10%沈降硫黄ワセリン】
抗菌作用を示し、寄生虫性皮膚疾患に用いられるが、疥癬治療のガイドライン的には、有効性に十分な根拠がないとされ、使用頻度は少ない。
使用方法:1回20g程度を1日1回 5~15日連日塗布。
オイラックスクリーム10%【クロタミトン】
かゆみ止めとしてよく使用される薬。殺虫効果は弱いが、疥癬発症初期や潜伏期での有効性は報告されている。
使用方法:1回20g程度 1日1回 10~14日間連日塗布
5%ペルメトリン
合成ピレスロイド系殺虫剤の1種で、ゴキブリや昆虫、ダニに対して効果を示す物質。
毒性が低く、生後2ヶ月~使用できるため、海外の多くの国で第一選択薬であるが、日本では防腐剤としてホルムアルデヒドを含む製剤があるという理由から認可されていない。
使用方法:1回20g程度 1週間隔で2回塗布
内服薬
ストロメクトール【イベルメクチン】
2006年に疥癬の適応となった唯一の内服薬で、疥癬治療のガイドラインでは、有効性が高いとされている。
使用方法:体重1㎏あたり約200㎍を、空腹時に1回、水で内服する。2回目投与は1週間後。
体重(㎏) | 3㎎錠数 |
15~24 | 1 |
25~35 | 2 |
36~50 | 3 |
51~65 | 4 |
66~79 | 5 |
≧80 | 約200μg/㎏ |
主な治療スケジュール
0日目 | ・入浴orシャワー ・寝具・衣類の交換 ・スミスリンローション(1回目)塗布 ・ストロメクトール(1回目)内服 |
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1日目 | スミスリンローション(1回目)塗布後、12時間以上経過したら、入浴or シャワーで洗浄、除去する。 |
7日目 | ・スミスリンローション(2回目)塗布 ・ストロメクトール(2回目)内服 |
8日目 | スミスリンローション(2回目)塗布後、12時間以上経過したら、入浴or シャワーで洗浄、除去する。 |
14日目 | 必要時応じて、検査を行い、スミスリンローション・ストロメクトール(3回目)の使用を検討。 |
感染対策
個人防護具の使用
疥癬患者のケアを行うときには、手袋・ガウンを装着し、処置後の石鹸と流水での手洗いを徹底する。
隔離(角化型疥癬のみ)
通常型疥癬の場合は、皮膚が接触しない限り感染はしないため、隔離の必要はない。ただし、角化型疥癬の場合は非常に感染力が強いため、個室での隔離が必要となる。
一般的には、治療開始1~2週間で隔離は終了してよいとされる。
リネン類の熱処理(角化型疥癬のみ)
角化型疥癬の場合には、リネン類や落屑による間接感染のリスクがあるため、リネン類は、50℃、10分以上、熱湯に漬けるか乾燥機を使用して熱処理を行う。
殺虫剤の散布(角化型疥癬のみ)
市販のピレスロイド系の殺虫剤(ダニアースなど)は、ヒゼンダニにも有効。
角化型疥癬の場合には、病室、壁、床、カーテン、ベッドマットなどに殺虫剤を散布する。リネン類を部屋から持ち出す場合にも、袋を密閉する前に散布することがある。
通常疥癬は特別な感染対策は不要。ただし、角化型疥癬の場合には厳重な感染管理が必要になる!