内服薬は、特定の食べ物や飲み物と一緒に摂ると、本来持つ効果が減弱したり、逆に増強することがある。このような「内服薬と食べ物の組み合わせによる影響」を理解することは、看護師が内服管理を行う上で、とても大切。
この記事では、どの薬とどんな食べ物を一緒に摂ると問題が起きやすいのか?を一覧でまとめる。薬の働きに影響を与える仕組みや、患者さんに伝えるべきポイントについても解説する。
『ワルファリン』×『ビタミンK』
禁忌として最も有名であろう組み合わせ。
ワルファリンは、抗凝固薬(血を固まりにくする薬剤)で、心房細動、人工弁置換術後、血栓症の既往がある患者などに処方される。
ビタミンKを多く含む納豆やクロレラといった食品は、ワルファリンの抗凝固作用を減弱させ、血栓のリスクが増大するため禁忌となる。
納豆、クロレラ、ほうれん草(ほうれん草は納豆やクロレラに比べるとビタミンKの含有量は少ないので、小鉢で一杯程度は問題ない)
『スタチン系製剤』×『グレープフルーツ』
スタチン系製剤は、脂質異常症の治療薬で、LDLコレステロールを下げ、動脈硬化の予防や治療に使用される。
<主なスタチン系製剤>
→リピトール、メバロチン、クレストール
グレープフルーツやそのジュースには、フラノクマリン類という化学物質が含まれているのだが、これが、スタチン系の薬剤を分解する酵素の働きを阻害するため、スタチンの代謝が遅れて血中濃度が上昇してしまう。スタチンの血中濃度が高くなりすぎると、横紋筋融解症や腎障害といった重大な副作用を引き起こすリスクが高まるため、完全に禁忌となる。
『カルシウム拮抗薬』×『グレープフルーツ』
カルシウム拮抗薬は降圧剤としてより使用される薬で、血管を拡張し血圧を下降させる効果がある。
<主なカルシウム拮抗薬>
→アムロジピン、ニフェジピン、ニカルジピン
スタチン系製剤と同じく、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類が薬剤を分解する酵素の働きを阻害することで、薬の血中濃度が上昇する。
これにより、過剰な降圧作用により、血圧低下や意識障害を引き起こすリスクがある。
スタチン系製剤のように絶対禁忌ではないが、避けることが推奨されている。
『テオフィリン』×『カフェイン飲料』
テオフィリンは、気管支拡張薬(気管支を広げて呼吸を楽にする薬)で、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者に使われる。
<主なテオフィリン製剤>
→テオドール、ユニフィル
カフェインは、テオフィリンと同じく中枢神経を刺激するため、相乗効果により副作用(動悸、不眠、不安感など)を増強させる。重症の場合けいれんや中毒症状が起こる可能性があるため、カフェイン含有飲料は禁忌ではないが、控えめにし、血中濃度が大きく変動しないために摂取量を一定にするよう注意することが必要となる。
『ACE阻害薬』×『カリウム』
ACE阻害薬は、高血圧や心不全治療薬でアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することで、血管を拡張し血圧を下げる。
<主なACE阻害薬>
→エナラプリル(レニベース)、イミダプリル(タナトリル)
ACE阻害薬は、Naの再吸収とカリウムの排泄を促すアルドステロンの働きを低下させるため、カリウムを多く摂取すると、排泄が間に合わず、高カリウム血症を引き起こす可能性がある。
高カリウム血症が進行すると、致死性不整脈や心停止を引き起こすリスクがあるため、過剰摂取は避け、定期的にカリウム値のチェックを行う。
バナナ、メロン、ほうれん草、ジャガイモ、アボカド、枝豆、アーモンド、鮭など。
『モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬』×『チラミン』
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬は抗うつ薬やパーキンソン病治療薬として使用される薬。
<主なモノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬>
エフピー、セレギリン
チラミンは、発酵食品や熟成食品に含まれるアミンの一種で、血圧を上昇させる作用をもつ。
通常は、腸や肝臓に存在するMAOによって分解されるが、MAO阻害薬の服用により分解されずに吸収されるとチラミンの血中濃度が上昇し、チラミン誘発性高血圧危機(チラミンにより急激で危険な血圧上昇)を引き起こす可能性がある。
そのため、服用中は、チラミンを含む食品を避けるよう指導を行う。
発酵食品・熟成食品:
- チーズ(特にブルーチーズやチェダーチーズなど熟成チーズ)
- 発酵食品(納豆、味噌、キムチ、醤油など)
- 酵母を使った食品(パンやビールなど)
加工食品:
- サラミ、ソーセージなどの加工肉
- 魚の干物(例:ししゃも、スルメ)
飲料:
- 赤ワイン
- ビール(特にエールビールやクラフトビール)
その他:
- 熟成果物(バナナ、アボカドなど)
- チョコレート
『テトラサイクリン系抗生物質』×『乳製品』
テトラサイクリン系抗生物質は、さまざまな細菌感染症に対して使用される薬。
<主なテトラサイクリン系抗生物質>
ミノマイシン、ビブラマイシブラマイシ、アクロマイシン
カルシウムはテトラサイクリン系抗生物質と結合して不溶性の固まりを作る。このため、薬剤が消化管から吸収されず、血中濃度が低下する。結果として、薬効が減弱し、感染症治療が不十分になるリスクが高まる。
明確な禁忌ではないが、カルシウムを含む食品(乳製品)やカルシウム強化飲料は、薬剤服用の2時間前後に摂取しないことが推奨される。
『フルオロキノロン系抗生物質』×『カルシウム』『マグネシウム』『鉄』
肺炎を始めとする、さまざまな細菌感染症に対して使用される。
<フルオロキノロン系抗生物質>
クラビット、レボフロキサシン、タリビット、シプロキサン
カルシウム、マグネシウム、鉄などの陽イオンとキノロン系薬剤が結合し、不溶性のキレートを形成する。これにより、薬剤の吸収が大幅に低下し、治療効果が減弱する。
牛乳や乳製品、鉄・マグネシウムなどのサプリメントを摂取する場合、薬剤服用の2時間前後に摂取しないことが推奨される。鉄剤を服用する場合は、さらに間隔を空ける必要がある。
内服薬と禁忌の食品【一覧表】
商品名 | 禁忌食品 | 相互作用 | 禁忌レベル | |
---|---|---|---|---|
ワルファリン (抗凝固薬) | ワーファリン | 納豆、クロレラ、(ビタミンKを多く含む食品) | ビタミンKがワルファリンの抗凝固作用を減弱させ、血栓リスクが増加する。 | 摂取制限 (納豆とクロレラは禁忌。) |
スタチン系薬剤 (脂質異常症治療薬) | ・リピトール ・メバロチン | グレープフルーツ | グレープフルーツが薬物代謝を抑制し、スタチンの血中濃度を上昇。横紋筋融解症や腎障害のリスク増大。 | 原則禁忌 |
カルシウム拮抗薬 (高血圧治療薬) | ・アムロジピン ・ニフェジピン ・ニカルジピン | グレープフルーツ | 上に同じく、グレープフルーツが薬物代謝を抑制し、過剰な降圧作用を引き起こす。 | 原則禁忌 |
テオフィリン (気管支拡張薬) | ・テオドール | カフェイン飲料(コーヒー、紅茶、エナジードリンク) | 中枢神経への刺激作用が相乗効果で増強。動悸・不眠などのリスク増大。 | 摂取制限 |
ACE阻害薬 (高血圧治療薬) | ・レニベース ・エースコール | バナナ、ほうれん草、ジャガイモ、アボカド、枝豆、アーモンド、鮭など(カリウムを多く含む食品) | カリウムの排泄が抑制されるため、高カリウム血症により致死性不整脈や心停止のリスクあり。 | 摂取制限 |
MAO阻害薬 (抗うつ薬) | ・パーネート ・エフピー | 熟成チーズ、赤ワイン、発酵食品(チラミンを多く含む食品) | チラミンが蓄積し、急性高血圧クリーゼを引き起こす可能性があるため、原則禁忌。 | 原則禁忌 |
テトラサイクリン系抗生物質 | ・ミノマイシン ・ビブラマイシ ・アクロマイシン | 牛乳、乳製品、カルシウム強化飲料 | 薬の成分とカルシウムが結合することで吸収を抑制し薬効が減弱。感染症治療が不十分になるリスクが高まる。 | 薬剤服用の2時間前後に摂取しないことが推奨 |
フルオロキノロン系抗生物質 | ・クラビット ・レボフロキサシン ・シプロキサン | 牛乳や乳製品、鉄・マグネシウムなどのサプリメント | 薬の成分とカルシウムやマグネシウムや鉄が結合することで吸収を抑制し薬効が減弱。感染症治療が不十分になるリスクが高まる。 | 薬剤服用の2時間前後に摂取しないことが推奨 |