認知症(dementia)は、疾患名ではなく、『正常に発達した認知機能が、脳の障害によって持続的に低下して、日常生活に支障をきたすようになった状態』のことを指す。
認知症をきたす疾患は前述したようにかなり多いのだが、9割を占めるのが、『4大認知症』と呼ばる以下4つの疾患である。
原因は不明だが、脳の神経細胞が脱落し、脳が萎縮する病気。
全認知症の50%以上を占める代表的な疾患である。
脳梗塞などで脳の血流が障害されて、脳の神経細胞が広範囲に障害される病気。
原因は不明だが、大脳皮質や脳幹の神経細胞の中にレビー小体という異常なタンパク質が溜まった結果、神経細胞が死滅する病気。
原因は不明だが、前頭葉から側頭葉にかけて集中して神経細胞が脱落することで、脳萎縮が進行していく病気。
臨床症状から、前頭側頭型認知症(FTD)・意味性認知症(SD)・進行性非流暢性失語症(PNFA)の3つに分類されている。
認知症症状は、基本的にどの認知症の人にもみられる中核症状と、中核症状から二次的に出現する様々な周辺症状(BPSD)からなる。
ADL(日常生活動作)は自立しているが、IADL(手段的日常生活動作)に支障がある状態。
ADLに支障があり、日常生活に介護が必要な状態。
認知機能とともに身体機能が低下し、常に介護を必要とする状態。
国際的に用いられている診断基準として、WHO(世界保健機関)が作成するICD-10(国際疾病分類第10版)による認知症診断基準の要約や、米国精神学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSM-Ⅲ-RやDSM-Ⅳ-TRが用いられる。
G1.以下の各項目を示す証拠が存在する。 1)記憶力の低下 新しい事象に関する著しい記憶力の減退。重要の例では過去に学習した情報の早期も障害され、記憶力の低下は客観的に確認されるべきである。 2)認知機能の低下 判断と思考に関する能力の低下や情報処理全般の悪化であり、従来の遂行能力水準からの低下を確認する。 1)2)により日常生活動作や遂行能力に支障をきたす |
G2.周囲に対する認識(すなわち、意識混濁がないこと)が、基準G1の症状をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれていること。せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留。 |
G3.次の1項目以上を認める 1)情緒易変性 2)易刺激性 3)無感情 4)社会的行動の粗雑化 |
G4.基準G1の症状が明らかに6ヶ月以上存在していて確定診断される |
認知症を疑った場合、精神疾患や身体疾患などと鑑別するために、病歴や症状、身体所見や神経心理検査、血液検査、画像検査などを行う。
特に、「治療可能な認知症」である甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、肝性脳症、神経梅毒などと鑑別することが重要となる。
認知症のスクリーニング検査としては、ミニメンタルステート検査(MMSE)が国際的に最も多く用いられている。
日本では、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が広く用いられている。
認知症の診断のため、アメリカで開発された認知症評価スケール。
書字・文章構成能力・図形模写課題を含む11項目からなり、複数の認知機能を評価することができる。
30点満点中、22~30点は『正常』、22~26点で『軽度認知症の疑い』、21点以下で『認知症の疑いが強い』と判定される。
質問内容 | 得点 | |
---|---|---|
1 | 今年は何年ですか 今の季節は何ですか? 今日は何曜日ですか? 今日は何月何日ですか? |
0、1 0、1 0、1 (月)0、1 (日)0、1 |
2 | この病院の名前は何ですか? ここは何県ですか? ここは何市ですか? ここは何階ですか? ここは何地方ですか? |
0、1 0、1 0、1 0、1 0、1 |
3 | 物品名3個(相互に無関係) 検者は1秒間に1個ずつ物品名を言う。 その後被験者に繰り返させる。 正解1個につき1点。 3個すべて言うまで繰り返す(6回まで)。 |
0 1 2 3 |
4 | 100から7を順に引いていく(5回) 5回で5点 あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる |
0、1 2、3 4、5 |
5 | 3で提示した物品名を複復唱させる |
0、1 2、3 |
6 | (時計をみせて)これは何ですか? (鉛筆を見せて)これは何ですか? |
0、1 0、1 |
7 | 次の文章をくり返す 「みんなで力を合わせて綱を引きます」 |
0、1 |
8 | (3つの命令を伝えてすべて聞き終わってから実行) 「右手にこの紙を持ってください」 「それを半分に折りたたんでください」 「机の上に置いてください」 |
0、1 0、1 0、1 |
9 | 次の文章を読んで実行する。 「目を閉じなさい」 |
0、1 |
10 | 何か文章を書いてください。 |
0、1 |
11 | 次の図形を書き写してください。 ![]() |
0、1 |
日本では、広く使われている簡易知能評価スケール。
MMSEと共通する項目もあるが、記憶検査が中心の9項目で、30点満点中20点以下で『認知症の疑い』と判定できる。
質問内容 | 得点 | |
---|---|---|
1 | 歳はおいくつですか? (2年までの誤差は正解) |
1 |
2 | 今日は何年 何月 何日 何曜日ですか? |
0、1 0、1 0、1 0、1 |
3 | ここはどこですか? (自発的にでれば2点 言えですか?施設ですか? の中から 正しく選択できれば1点) |
0、1、2 |
4 | これから言う言葉を言ってみて下さい。 あとでまた聞くのでよく覚えておいて下さい。 1、桜・猫・電車 2、梅・犬・自転車 (1,2どちらかを採用) |
0、1 0、1 0、1 |
5 | 100から7を順に引いて下さい 93 86 |
0、1 0、1 |
6 | これから言う数字を逆から言って下さい。 6-8-2(2-8-6) 3-5-2-9(9-2-5-3) |
0、1 0、1 |
7 | 先ほど覚えてもらった言葉を もう一度言ってみてください。 (自発的に言えたら各2点 以下のヒントを与え正解であれば1点) a)植物 b) 動物 c)乗り物 |
0、1、2 0、1、2 0、1、2 |
8 | これから4つの品を見せます。 それを隠しますので何があったか 言ってください。 (時計・鍵・タバコ・ペン・硬貨など 相互性のないもの) |
0、1、2 3、4、5 |
9 | 知っている野菜の名前を できるだけ多く言って下さい。 (10秒間待っても出ない場合はそこで打ち切る) 0~5個=0点、6個=1点、7個=2点 8個=3点、9個=4点、10個=5点 |
0、1、2 3、4、5 |