認知症とは?
認知症(dementia)は、疾患名ではなく、『正常に発達した認知機能が、脳の障害によって持続的に低下して、日常生活に支障をきたすようになった状態』のことを指す。
認知症の原因疾患
神経変性疾患
- アルツハイマー病
- 前頭側頭型認知症
- レビー小体型認知症
- パーキンソン病
- 進行核上性麻痺
- 大脳皮質基底核変性症など
脳血管障害
- 脳梗塞
- 脳出血など
感染症
- 髄膜炎
- 脳炎
- HIV感染症
- 進行麻痺(神経梅毒)
- 脳寄生虫など
腫瘍
- 原発性/転移性脳腫瘍
- がん性髄膜症
外傷
- 脳挫傷
- 慢性硬膜下血腫など
代謝・栄養障害
- ウェルニッケ脳症
- 肝性脳症
- ビタミンB 12不足
- 尿毒症
- 養蚕欠乏症
- 電解質異常
- 脱水など
内分泌疾患
- 甲状腺機能低下症
- 下垂体機能低下症
- 副甲状腺機能亢進症/低下症
- 副腎皮質機能亢進症など
中毒性疾患
- 慢性アルコール中毒
- 薬物中毒
- 一酸化炭素中毒
- 金属中毒(鉛、アルミニウム、鉛など)
その他
- 正常圧水頭症
- 低酸素血症
- ミトコンドリア脳筋症など
主な認知症の原因疾患
認知症をきたす疾患は前述したようにかなり多いのだが、9割を占めるのが、『4大認知症』と呼ばる以下4つの疾患である。
1,アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)
原因は不明だが、脳の神経細胞が脱落し、脳が萎縮する病気。
全認知症の50%以上を占める代表的な疾患である。
脳血管性認知症
脳梗塞などで脳の血流が障害されて、脳の神経細胞が広範囲に障害される病気。
レビー小体型認知症
原因は不明だが、大脳皮質や脳幹の神経細胞の中にレビー小体という異常なタンパク質が溜まった結果、神経細胞が死滅する病気。
前頭側頭葉変性症(FTLD)
原因は不明だが、前頭葉から側頭葉にかけて集中して神経細胞が脱落することで、脳萎縮が進行していく病気。
臨床症状から、前頭側頭型認知症(FTD)・意味性認知症(SD)・進行性非流暢性失語症(PNFA)の3つに分類されている。
認知症の症状
認知症症状は、基本的にどの認知症の人にもみられる中核症状と、中核症状から二次的に出現する様々な周辺症状(BPSD)からなる。
中核症状
記憶障害
昔の経験や出来事について思い出すことができなかったり、新しいことを記憶することができなくなる。
見当識障害
時間・場所・人がわからなくなる。
今日の日付がわからなかったり、住み慣れた街でも道に迷うようになる。
失語
言語中枢の損傷により、言葉を理解して「話す」「聞く」「読む」「書く」といった言語機能が低下する。
喚語障害(言いたい言葉が出てこない)を呈するが発語は流暢な健忘失語や、理解を伴わない復唱が特徴的な超皮質性感覚性失語などがみられる。
失行
運動機能に問題はないが、目的の動作や行動ができなくなる。
衣服をうまく着られない着衣失行や、体温計をケースから出して脇に挟むなどいくつかの動作を組み合わせる行動ができなくなる観念失行などが見られる。
失認
視覚・聴覚・触覚に問題はないが、モノや状況を認識したり、区別できなくなる。
知人を見ても、知人だとわからなかったり、モノをみても、何かわからない視覚失認がみられる。
遂行(実行)機能障害
計画を立て、順序を考えて行動する機能が障害される。
鍋を火にかけて、野菜を切って、沸騰したら野菜を茹でて…など仕事や家事に支障が現れる。
周辺症状(BPSD)
暴言・暴力
感情を抑制できなくなったり、思い通りに理解・行動できなくなった不安や苛立ちなどから、ちょっとした刺激で暴言や暴力に繋がってしまうことがある。
焦燥性興奮
不適当な言動をとることで、具体的には、大声で叫ぶ、罵る、暴言・暴力をふるうなどの症状が現れる。
徘徊
あてもなくブラブラと歩き回る。
異食
土や紙など食べ物ではないものを食べる。
過食
食べたことを忘れたり、満腹中枢の機能が低下することにより、暴食・過食がみられることがある。
幻覚・妄想
実在しないものが見えたり、聴こえたりする。
また、出現頻度が多い妄想は、対象が身近な家族や介護者となることが多く、被害妄想が多いのが特徴。特に、「財布を盗まれた」などの物盗られ妄想が多い。
抑うつ
意欲の低下や気分の落ち込みがみられ、悲観的になりやすい。
不安
特に軽度の認知症患者では、わからないこと、わからなくなることへの不安感を感じることがある。
性的脱抑制
不適切な性的言動が認められる。
行動に至ることは少ないが、まれに接触行為や性的問題行為をとることがあるので、注意が必要。
認知症の重症度
軽度認知症者
ADL(日常生活動作)は自立しているが、IADL(手段的日常生活動作)に支障がある状態。
中等度認知症
ADLに支障があり、日常生活に介護が必要な状態。
重度認知症者
認知機能とともに身体機能が低下し、常に介護を必要とする状態。
認知症の診断基準
国際的に用いられている診断基準として、WHO(世界保健機関)が作成するICD-10(国際疾病分類第10版)による認知症診断基準の要約や、米国精神学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSM-Ⅲ-RやDSM-Ⅳ-TRが用いられる。
ICD-10による認知症診断基準(要約) |
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G1.以下の各項目を示す証拠が存在する。 1)記憶力の低下 新しい事象に関する著しい記憶力の減退。重要の例では過去に学習した情報の早期も障害され、記憶力の低下は客観的に確認されるべきである。 2)認知機能の低下 判断と思考に関する能力の低下や情報処理全般の悪化であり、従来の遂行能力水準からの低下を確認する。 1)2)により日常生活動作や遂行能力に支障をきたす |
G2.周囲に対する認識(すなわち、意識混濁がないこと)が、基準G1の症状をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれていること。せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留。 |
G3.次の1項目以上を認める 1)情緒易変性 2)易刺激性 3)無感情 4)社会的行動の粗雑化 |
G4.基準G1の症状が明らかに6ヶ月以上存在していて確定診断される |
認知症の検査
認知症を疑った場合、精神疾患や身体疾患などと鑑別するために、病歴や症状、身体所見や神経心理検査、血液検査、画像検査などを行う。
特に、「治療可能な認知症」である甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、肝性脳症、神経梅毒などと鑑別することが重要となる。
認知症のスクリーニング検査としては、ミニメンタルステート検査(MMSE)が国際的に最も多く用いられている。
日本では、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が広く用いられている。
MMSE
認知症の診断のため、アメリカで開発された認知症評価スケール。
書字・文章構成能力・図形模写課題を含む11項目からなり、複数の認知機能を評価することができる。
30点満点中、22~30点は『正常』、22~26点で『軽度認知症の疑い』、21点以下で『認知症の疑いが強い』と判定される。
質問内容 | 得点 | |
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1 | 今年は何年ですか 今の季節は何ですか? 今日は何曜日ですか? 今日は何月何日ですか? | 0、1 0、1 0、1 (月)0、1 (日)0、1 |
2 | この病院の名前は何ですか? ここは何県ですか? ここは何市ですか? ここは何階ですか? ここは何地方ですか? | 0、1 0、1 0、1 0、1 0、1 |
3 | 物品名3個(相互に無関係) 検者は1秒間に1個ずつ物品名を言う。 その後被験者に繰り返させる。 正解1個につき1点。 3個すべて言うまで繰り返す(6回まで)。 | 0 1 2 3 |
4 | 100から7を順に引いていく(5回) 5回で5点 あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる | 0、1 2、3 4、5 |
5 | 3で提示した物品名を複復唱させる | 0、1 2、3 |
6 | (時計をみせて)これは何ですか? (鉛筆を見せて)これは何ですか? | 0、1 0、1 |
7 | 次の文章をくり返す 「みんなで力を合わせて綱を引きます」 | 0、1 |
8 | (3つの命令を伝えてすべて聞き終わってから実行) 「右手にこの紙を持ってください」 「それを半分に折りたたんでください」 「机の上に置いてください」 | 0、1 0、1 0、1 |
9 | 次の文章を読んで実行する。 「目を閉じなさい」 | 0、1 |
10 | 何か文章を書いてください。 | 0、1 |
11 | 次の図形を書き写してください。 | 0、1 |
HDS-R
日本では、広く使われている簡易知能評価スケール。
MMSEと共通する項目もあるが、記憶検査が中心の9項目で、30点満点中20点以下で『認知症の疑い』と判定できる。
質問内容 | 得点 | |
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1 | 歳はおいくつですか? (2年までの誤差は正解) | 1 |
2 | 今日は何年 何月 何日 何曜日ですか? | 0、1 0、1 0、1 0、1 |
3 | ここはどこですか? (自発的にでれば2点 言えですか?施設ですか? の中から 正しく選択できれば1点) | 0、1、2 |
4 | これから言う言葉を言ってみて下さい。 あとでまた聞くのでよく覚えておいて下さい。 1、桜・猫・電車 2、梅・犬・自転車 (1,2どちらかを採用) | 0、1 0、1 0、1 |
5 | 100から7を順に引いて下さい 93 86 | 0、1 0、1 |
6 | これから言う数字を逆から言って下さい。 6-8-2(2-8-6) 3-5-2-9(9-2-5-3) | 0、1 0、1 |
7 | 先ほど覚えてもらった言葉を もう一度言ってみてください。 (自発的に言えたら各2点 以下のヒントを与え正解であれば1点) a)植物 b) 動物 c)乗り物 | 0、1、2 0、1、2 0、1、2 |
8 | これから4つの品を見せます。 それを隠しますので何があったか 言ってください。 (時計・鍵・タバコ・ペン・硬貨など 相互性のないもの) | 0、1、2 3、4、5 |
9 | 知っている野菜の名前を できるだけ多く言って下さい。 (10秒間待っても出ない場合はそこで打ち切る) 0~5個=0点、6個=1点、7個=2点 8個=3点、9個=4点、10個=5点 | 0、1、2 3、4、5 |