急性膵炎

目次

急性膵炎とは?

膵臓が分泌している消化酵素が、さまざまな原因によって膵組織や膵臓の周辺組織を自己消化してしまう病態。

急性膵炎の原因

アルコール多飲(37.3%)

日本酒で3合以上、ビールで大瓶3本以上、ウイスキーボトル1/3以上の飲酒を10~15年続けると発症するとされる。
原因は明らかとなっていないことも多いが、膵導管の閉塞や消化酵素の活性化により、急性膵炎を引き起こすとされている。

総胆管結石(23.8%)

結石がファーター乳頭に嵌頓すつと、膵臓→胆管への膵液流出が障害されたり、胆汁の膵管内へ逆流により、急性膵炎を引き起こす。

特発性(22.6%)

上記のようにアルコール性や総胆管結石など原因がはっきりしない、原因不明の急性膵炎のこと。内視鏡後の合併症内視鏡的逆行性水胆管造影(ERCP)など内視鏡操作後の合併症として発症する場合もある。

薬剤性

ジダノシン(抗HIV薬)、L-アスパラギナーゼ(抗がん剤)、イセチオン酸ペンミジン(抗真菌薬)などの副作用として発症することがある。

急性膵炎の病態生理

急性膵炎の病態生理

膵臓で合成された膵液(消化酵素)は、膵臓内では非活性型で貯蔵されていて、十二指腸に送り出されて初めて消化酵素として活性化する。しかし、ファーター乳頭の閉塞で膵臓内で膵液と胆汁が混ざったり、その他なんらかの原因で膵臓内で消化酵素が活性化されると、膵組織の自己消化を起こして急性膵炎を発症する。

膵液の働きを復習!
膵臓は、消化液である膵液を産出し、十二指腸に送り出している。
膵液には、たんぱく質を分解するトリプシン、でんぷんを分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼなどが含まれている。

膵組織の自己消化が起きると、膵臓の壊死、血管壁の破壊、浮腫、出血を起こし炎症物質であるサイトカインが産出される。そのため、膵炎が重症化した場合には、局所的な炎症に留まらず、全身性炎症反応(SIRS)を引き起こし、敗血症、呼吸不全、多臓器不全、ショックなどの合併症を来たし、致命的な状態となりうる。

急性膵炎の症状

  • 持続性かつ激烈な心窩部~左季肋部痛
    →背中を丸めると少し楽になるのが特徴
  • 背部痛
  • 左肩への放散痛
  • 腹膜刺激症状(圧痛・筋性防御・反跳痛)
  • 嘔吐

重症化した場合

  • 腹部膨満(腸管麻痺や腹水貯留による)
  • 発熱、頻脈
  • 腎不全(乏尿・無尿)
  • 肝不全(黄疸)
  • 呼吸困難
  • ショック症状
    炎症による血管透過性亢進により、血管内→細胞へ水分の移行が起こる。
  • 出血徴候(血性腹水の貯留による)
    カレン徴候:臍周囲の皮膚に出血斑が出現
    グレイターナー徴候:左側腹部に出血斑が出現

急性膵炎の重症度

急性膵炎の重症度判定基準<2008年改訂>より

Aー予後因子

  • 原則として発症後48時間以内に判定。
  • 以下の各項目を1点として合計したものを予後因子の点数とする。
  • 予後因子が3点以上を重症2点以下を軽症と判定。
  1. BE≦-3 mEq/lまたはショック
  2. PaO2≦60 mmHg (room air)または呼吸不全
  3. BUN≧40 mg/dl (またはCr≧2.0 mg/dl)または乏尿
  4. LDH≧基準値上限の2倍
  5. 血小板数≦10万/mm3
  6. 総Ca値≦7.5 mg/dl
  7. CRP≧15 mg/dl
  8. SIRS診断基準における陽性項目数≧3
  9. 年齢≧70歳
ショック収縮期血圧80mmHg以下
呼吸不全人工呼吸を必要とするもの
乏尿輸液後も1日の尿量が400ml以下であるもの
臨床徴候の基準
体温>38℃あるいは<36℃
脈拍>90回/分
呼吸数>20回あるいはPaCO2>32mmHg
白血球数>12,000/㎣か<4,000㎣
または10%超の幼若球出現
SIRS診断基準項目

Bー造影CT Grade

  • 原則として発症後48時間以内に判定。
  • 炎症の膵外進展度と膵の造影不良域のスコアが、合計1点以下をGrade1、2点をGrede2、3点をGrade3とする。
  1. 炎症の膵外進展度
    (1)前腎傍腔…0点
    (2)結腸間膜根部…1点
    (3)腎下極以遠…2点
  2. 膵の造影不良域:膵臓を便宜的に膵頭部、膵体部、膵尾部の3つの区域に分け
    (1)各区域に限局している場合、または膵の周辺のみの場合…0点
    (2)2つの区域にかかる場合…1点
    (3) 2つの区域全体をしめる、あるいはそれ以上の場合…2点

Cー重症度判定

  • 予後因子が3点以上、または造影CTGrade2以上のものを重症急性膵炎と判定
  • 予後因子が2点以下、および造影CTGrade1以下のものを軽症急性膵炎と判定

急性膵炎の検査と臨床所見

採血・尿検査

膵酵素(アミラーゼ・リパーゼ)の上昇

胸腹部のX線

・腸閉塞によるイレウス憎、大腸・小腸の拡張
・胸・腹水の貯留を認めることがある。

超音波検査

膵炎の診断に有用な検査。
・膵臓の肥大
・エコーレベルの低下(炎症や浮腫がある場合、膵臓が黒く見える)
・膵輪郭の不明瞭化(壊死や出血を反映する)を認めることがある。

CT検査

膵炎や合併症の診断、その他の疾患との鑑別にも有用な検査。超音波検査だけでは不十分だった情報が得られることも多く、重症膵炎の場合、重要度や治療方針の決定にも必要な検査となる。

急性膵炎の治療

内科的治療

絶飲食

膵外分泌の抑制のため、禁飲食となる他、H₂受容体拮抗薬(ファモチジン)や、プロトロンプ阻害薬(オメプラール)の投与を行う。

輸液

膵臓の炎症により、体液が膵周囲や後腹膜腔に漏出し、循環血液量が減少するため、補正を行う。
※急性膵炎では、通常輸液の2~4倍量が必要とされている。(60~160ml/㎏)

疼痛コントロール

激痛を伴うことが多いため、ペンタゾシン(ソセゴン)やブプレノルフィン塩酸塩(レペタン)などを筋注or静注or点滴で投与する。

タンパク質分解酵素阻害薬の投与

膵液の活性化を阻害する目的で、FOY:エフオーワイ(プロビトール)、フサン、ミラクリットを、重症度に合わせて組み合わせて投与する。

FOYやフサンは、濃度が高くなると血管内壁を障害し、静脈炎や血管の硬結、潰瘍・壊死を起こすことがあるので適切に希釈し、投与中は刺入部の観察を行い、異常時には直ちに投与を中止する。

FOYやフサンは、アルカリ性に傾いたり、亜硫酸塩によって含有量低下を招く。また、そのほか注射薬(抗生剤など)と混合することで白濁するため、単独投与!

急性膵炎の場合、大量輸液や静脈炎の危険性を考慮し、CVカテーテルを留置する場合も多い。

抗生剤の投与

膵膿瘍などの感染防止のために、膵組織への移行性が良く、広範囲の細菌に対応できる抗菌薬を投与する。
多く用いられる抗生剤→カルバぺネム系のイミペネム・シラスタチンナトリウム配合(チエナム)、メロペネム水和物(メロペン)など。

胆道結石の治療

胆石性膵炎の場合には、胆道の通過障害を改善するために、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)を行う。

重症膵炎の治療

上記で示した治療を基本に、臓器不全を合併した場合には血液透析(CHDF)や人工呼吸管理を行う。

外科的治療

基本的に、膵炎の治療は内科的治療が優先されるが、壊死性膵炎や膵膿瘍の場合には、外科的に開腹し、壊死組織の除去を行う場合もある。

急性膵炎の看護ケアのポイント

・緊急性・重症度のアセスメント

急性膵炎は、敗血症やDIC、ショック、呼吸不全を合併する場合もあり、致死率も高い疾患である。そのため患者のバイタルサインや全身状態、血液データ、そのほか検査データを観察し、重症度や治療効果を常にアセスメントすることが重要となる。

・疼痛の緩和

痛みが強い疾患であり、適宜鎮痛剤を使用して疼痛の緩和を図る。
また、痛みの増減を確認し、鎮痛剤の効果や治療効果の確認を行う。

・安静の援助

血流障害のため、急性膵炎では安静が必要となる。
患者の重症度や疼痛によってもADLに違いはあるが、患者のADLや安静度に合わせて排泄や移動、保清の援助を行う。

・不安の除去

痛みや安静、治療(CVやドレナージ、膀胱留置カテーテルなど)による体動の制限により、精神的に不穏となることも多い。身体的苦痛とともに、表情や態度・睡眠などから精神的苦痛の把握に努め、その不安が少しでも緩和できるよう介入する。

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