中心静脈栄養(TPN)の基本と看護

目次

中心静脈栄養とは?

高カロリーの輸液を、中心静脈(心臓に近い太い静脈)から継続的に入れる方法。

TPNとは?

通常の中心静脈カテーテル(CVC)の他、受け込み型のCVポート、末梢静脈から挿入するPICC(ピック)が用いられる。

中心静脈栄養の略語「TPNとIVH」

TPN(Total Parenteral Nutrition)は「完全な非経口栄養」、IVH(Intravenous Hyperalimentation)は「経静脈的高カロリー輸液」という意味で、どちらも中心静脈栄養法を示す。

しかし、IVHのH(Hyperalimentation)は「栄養過剰」という意味をもつため、今はTPNを用いる方が適切と言われている。

国際的にも、TPNが用いられる。

(※以下、中心静脈栄養はTPNと表記。)

TPNの目的

経口・経腸的に栄養を摂取できない患者に対して、生命維持や成長に必要なエネルギーを補給する。

TPNの適応

  • 経口的・経腸的に栄養摂取が不可能な場合
  • 手術前後の栄養状態を改善する目的
  • 末梢血管栄養(PPN)では栄養が保持できない場合など

栄養管理は、基本的に消化管を使用することが大原則!
消化管が機能していなかったり、腸管の安静が必要な疾患などで、どうしても消化管が使用できない場合に、静脈栄養が適応となる。

末梢から投与できるエネルギーは1日1000kcal程が限界。
そのため、2週間以上の長期にわたって静脈栄養が必要な場合は、TPNが選択される。

TPNの特徴

高濃度のTPN製剤が投与できる

必要なエネルギーを長期的に投与するためには、かなり高濃度の製剤を投与しなければいけないが、これを末梢血管から投与しようとすると、浸透圧が高く、血管痛・血管傷害を引き起こしてしまう。

TPNは、血流が豊富ですぐに希釈される中心静脈を用いるため、高濃度・高浸透圧の栄養が投与できる。

1日に必要な栄養を24時間かけて投与

TPNでは、1日に必要な栄養素(炭水化物・蛋白質・脂質、ビタミン、ミネラル)を投与することができる。

これを、急速に投与すると、代謝しきれずに高血糖になる恐れがあるため、24時間かけて一定の速度で投与する。

一定の速度を保つため、TPNは基本的に輸液ポンプを使用する!

TPN製剤の種類と特徴

TPN基本液

糖質+電解質を含む基本液。
この2つのバランスにより、さまざまな種類がある。

量ml糖gカロリー㎉
ハイカリック1号700120480
ハイカリック2号700175700
ハイカリック3号7002501000
ハイカリックNC-L700120480
ハイカリックNC-N700175700
ハイカリックNC-H7002501000
ハイカリックRF250125500
5002501000
10005002000
TPN基本液

ハイカリックNCは、ナトリウムとくクロールを配合。ハイカリックRFは、腎不全用で、カリウムやリンを含まない。

ハイカリックの中には、アミノ酸やビタミンが含まれていないため、アミノ酸製剤やビタミン剤を併用する。

TPN製剤キット

上の基本液に、アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素を配合したキット製剤がある。

基本液+アミノ酸

糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤を配合した製品。

ビタミンは含まないので、ビタミンB1製剤を併用する。

量ml糖gカロリー㎉
ピーエヌツイン1号1000120560
ピーエヌツイン2号1100180840
ピーエヌツイン3号1200250.41160
ユニカリックL1000125600
ユニカリックN1000175820
基本液+アミノ酸

基本液+アミノ酸+脂肪

糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤脂肪乳剤を配合した製品。

量ml糖gカロリー㎉
ミキシッドL900110700
ミキシッドH900150900
基本液+アミノ酸+脂肪

ミキシッドLは開始液として、ミキシッドHは維持液として使用する。

ミキシッド以外のTPN製剤は、必須脂肪酸が含まれていないため、脂肪乳剤(イントラリポス輸液)を追加投与する必要がある!
ちなみにイントラリポスは単独投与のため、別ルートを使用するか末梢ルートを確保する。

基本液+アミノ酸+ビタミン剤

糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤ビタミン剤を配合した製品。

量ml糖gカロリー㎉
ネオパレン1号1000120560
1500180840
20002401120
ネオパレン1号1000175820
1500262.51230
20003501640
フルカリック1号903120560
1354.5180840
フルカリック2号1003175820
1504.5262.51230
フルカリック3号11032501160
基本液+アミノ酸+ビタミン剤

基本液+アミノ酸+ビタミン剤+微量元素

基本液に、アミノ酸製剤ビタミン剤、鉄・マンガン・亜鉛・銅・ヨウ素などの微量元素製剤が含まれたもの。

量ml糖gカロリー㎉
エルネオパNF1号1000120560
1500180840
20002401120
エルネオパNF2号1000175820
1500262.51230
20003501640
基本液+アミノ酸+ビタミン剤

TPNの導入・管理

TPNの導入・管理イメージ
  • TPN開始時は、低濃度のブドウ糖(1号液)から始め、2~3日かけて徐々に濃度を上げていく。
    血糖値≦150㎎/dlを目標!
  • 維持液(2号液)で、1日の必要カロリーを投与する。
  • TPN製剤によって、アミノ酸製剤、脂肪乳剤、ビタミン剤などを追加・併用する。
  • 離脱時は、低血糖予防のため、2~3日かけてゆっくりカロリーを下げる。

TPN施行中の合併症

高血糖・低血糖

高濃度のブドウ糖を直接静脈に入れるため、高血糖を起こしやすい。

そのため、インスリンを高カロリー輸液に混注したり、シリンジポンプを用いてインスリンの持続投与を行い、高血糖を防ぐことが多い。

また、高カロリー輸液中は、高濃度の糖を処理するためにインスリンが多く分泌されるため、急に中止すると低血糖発作を起こしやすい。

電解質異常

電解質異常により、嘔気・嘔吐、知覚障害が起こることがある。
亜鉛不足による皮膚炎、脱毛、下痢、味覚異常のほか、低リン血症、カリウム変動がみられることも。

代謝性アシドーシス

ビタミンB1が不足することで、糖の代謝が阻害され、乳酸が蓄積した結果、重篤な代謝性アシドーシスを引き起こす。

そのため、TPN中は、必ずビタミン剤を併用する。そうすることで、代謝性アシドーシスを起こすリスクを低減できる。

肝機能障害

絶食による胆嚢収縮能の低下や、糖質の過剰投与に起因して肝機能障害を起こすことがある。
TPN開始時に生じることが多く、投与速度の調整や、糖質の減量で改善を図る。

必須脂肪酸欠乏症

必須脂肪酸を含まないTPN製剤だけでは、TPN開始3~4週間で欠乏症が発生し、脂肪肝や肝機能障害を引き起こす。

そのため、脂肪乳剤を含まないミキシッド以外のTPN液投与時には、脂肪乳剤(イントラリポス)を併用することが推奨される。

長期留置によるカテーテル先端異常・血管穿孔

CVカテーテルの固定が緩み、先端位置が変わることがある。

まれに、カテーテル先端が血管壁を突き破り、TPN液の血管外漏出を起こすこともある。

固定は適切に行われているか、滴下は良好か、咳・喘鳴・呼吸困難度の症状はないか観察するとともに、定期的な胸部Xpでカテーテルの先端位置を確認する。

カテーテル関連血流感染症CRBSI

TPN中は、CVカテーテル挿入部からの感染(カテーテル関連血流感染症CRBSI:通称カテーテル熱)が起こりやすい。
敗血症や多臓器不全になる危険性があるので、基本的に、CRBSIが疑われたらすぐにカテーテルは抜去し、抗生剤の投与を行う。

感染防止のためには、鎖骨下静脈からCVCを挿入することが推奨されている。PICCも、鎖骨下静脈穿刺時同様に、感染率が低い。

TPN施行中の看護

感染管理

カテーテル関連血流感染症(CRBSI)予防のため、週に1~2回、曜日を決めて刺入部の消毒、ドレッシング剤の交換を行う。
ルート交換時や接続時には無菌操作
を徹底する。

CVC挿入部は毎日観察し、発赤・腫脹などの感染徴候に注意する。
ただし、CRBSIは、刺入部の感染徴候は見られないことが多く、急な発熱・悪寒・戦慄などの症状が特徴。

CRBSIが疑われると、末梢血管・CVカテーテル内・カテーテル先端の培養検査や尿検査を行うことが予測されるので、準備しておく。

脂肪乳化剤を含んだ製剤は、三方活栓にひび割れを生じさせることがあるので、接続部での液漏れや汚染に注意し観察する。

滴下速度の確認

大量補液による高血糖、滴下不良による低血糖を予防するために、定期的に滴下速度・輸液バックの残量を確認する。

カテーテルの血管外漏出時にも、滴下不良が認められるので注意する。

血糖チェック

TPN中は、定期的に血糖をチェックを行い、 口渇・多尿・体重減少・倦怠感などの高血糖症状を見逃さない。

電解質をチェック

亜鉛不足やビタミン不足、低リン血症、カリウムの変動がみられることがあるので、定期的な血液検査で電解質をチェックする。

in/outバランスのチェック

水分出納バランスがくずれると、さまzまな機能障害を呈するため、水分出納はほぼ平衡になるよう管理する。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次