中心静脈栄養とは?
高カロリーの輸液を、中心静脈(心臓に近い太い静脈)から継続的に入れる方法。
通常の中心静脈カテーテル(CVC)の他、受け込み型のCVポート、末梢静脈から挿入するPICC(ピック)が用いられる。
中心静脈栄養の略語「TPNとIVH」
TPN(Total Parenteral Nutrition)は「完全な非経口栄養」、IVH(Intravenous Hyperalimentation)は「経静脈的高カロリー輸液」という意味で、どちらも中心静脈栄養法を示す。
しかし、IVHのH(Hyperalimentation)は「栄養過剰」という意味をもつため、今はTPNを用いる方が適切と言われている。
国際的にも、TPNが用いられる。
(※以下、中心静脈栄養はTPNと表記。)
TPNの目的
経口・経腸的に栄養を摂取できない患者に対して、生命維持や成長に必要なエネルギーを補給する。
TPNの適応
- 経口的・経腸的に栄養摂取が不可能な場合
- 手術前後の栄養状態を改善する目的
- 末梢血管栄養(PPN)では栄養が保持できない場合など
TPNの特徴
高濃度のTPN製剤が投与できる
必要なエネルギーを長期的に投与するためには、かなり高濃度の製剤を投与しなければいけないが、これを末梢血管から投与しようとすると、浸透圧が高く、血管痛・血管傷害を引き起こしてしまう。
TPNは、血流が豊富ですぐに希釈される中心静脈を用いるため、高濃度・高浸透圧の栄養が投与できる。
1日に必要な栄養を24時間かけて投与
TPNでは、1日に必要な栄養素(炭水化物・蛋白質・脂質、ビタミン、ミネラル)を投与することができる。
これを、急速に投与すると、代謝しきれずに高血糖になる恐れがあるため、24時間かけて一定の速度で投与する。
TPN製剤の種類と特徴
TPN基本液
糖質+電解質を含む基本液。
この2つのバランスにより、さまざまな種類がある。
量ml | 糖g | カロリー㎉ | |
---|---|---|---|
ハイカリック1号 | 700 | 120 | 480 |
ハイカリック2号 | 700 | 175 | 700 |
ハイカリック3号 | 700 | 250 | 1000 |
ハイカリックNC-L | 700 | 120 | 480 |
ハイカリックNC-N | 700 | 175 | 700 |
ハイカリックNC-H | 700 | 250 | 1000 |
ハイカリックRF | 250 | 125 | 500 |
500 | 250 | 1000 | |
1000 | 500 | 2000 |
ハイカリックNCは、ナトリウムとくクロールを配合。ハイカリックRFは、腎不全用で、カリウムやリンを含まない。
ハイカリックの中には、アミノ酸やビタミンが含まれていないため、アミノ酸製剤やビタミン剤を併用する。
TPN製剤キット
上の基本液に、アミノ酸・脂肪・ビタミン・微量元素を配合したキット製剤がある。
基本液+アミノ酸
糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤を配合した製品。
ビタミンは含まないので、ビタミンB1製剤を併用する。
量ml | 糖g | カロリー㎉ | |
---|---|---|---|
ピーエヌツイン1号 | 1000 | 120 | 560 |
ピーエヌツイン2号 | 1100 | 180 | 840 |
ピーエヌツイン3号 | 1200 | 250.4 | 1160 |
ユニカリックL | 1000 | 125 | 600 |
ユニカリックN | 1000 | 175 | 820 |
基本液+アミノ酸+脂肪
糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤と脂肪乳剤を配合した製品。
量ml | 糖g | カロリー㎉ | |
---|---|---|---|
ミキシッドL | 900 | 110 | 700 |
ミキシッドH | 900 | 150 | 900 |
ミキシッドLは開始液として、ミキシッドHは維持液として使用する。
基本液+アミノ酸+ビタミン剤
糖質+電解質の基本液に、アミノ酸製剤とビタミン剤を配合した製品。
量ml | 糖g | カロリー㎉ | |
---|---|---|---|
ネオパレン1号 | 1000 | 120 | 560 |
1500 | 180 | 840 | |
2000 | 240 | 1120 | |
ネオパレン1号 | 1000 | 175 | 820 |
1500 | 262.5 | 1230 | |
2000 | 350 | 1640 | |
フルカリック1号 | 903 | 120 | 560 |
1354.5 | 180 | 840 | |
フルカリック2号 | 1003 | 175 | 820 |
1504.5 | 262.5 | 1230 | |
フルカリック3号 | 1103 | 250 | 1160 |
基本液+アミノ酸+ビタミン剤+微量元素
基本液に、アミノ酸製剤とビタミン剤、鉄・マンガン・亜鉛・銅・ヨウ素などの微量元素製剤が含まれたもの。
量ml | 糖g | カロリー㎉ | |
---|---|---|---|
エルネオパNF1号 | 1000 | 120 | 560 |
1500 | 180 | 840 | |
2000 | 240 | 1120 | |
エルネオパNF2号 | 1000 | 175 | 820 |
1500 | 262.5 | 1230 | |
2000 | 350 | 1640 |
TPNの導入・管理
- TPN開始時は、低濃度のブドウ糖(1号液)から始め、2~3日かけて徐々に濃度を上げていく。
血糖値≦150㎎/dlを目標! - 維持液(2号液)で、1日の必要カロリーを投与する。
- TPN製剤によって、アミノ酸製剤、脂肪乳剤、ビタミン剤などを追加・併用する。
- 離脱時は、低血糖予防のため、2~3日かけてゆっくりカロリーを下げる。
TPN施行中の合併症
高血糖・低血糖
高濃度のブドウ糖を直接静脈に入れるため、高血糖を起こしやすい。
そのため、インスリンを高カロリー輸液に混注したり、シリンジポンプを用いてインスリンの持続投与を行い、高血糖を防ぐことが多い。
また、高カロリー輸液中は、高濃度の糖を処理するためにインスリンが多く分泌されるため、急に中止すると低血糖発作を起こしやすい。
電解質異常
電解質異常により、嘔気・嘔吐、知覚障害が起こることがある。
亜鉛不足による皮膚炎、脱毛、下痢、味覚異常のほか、低リン血症、カリウム変動がみられることも。
代謝性アシドーシス
ビタミンB1が不足することで、糖の代謝が阻害され、乳酸が蓄積した結果、重篤な代謝性アシドーシスを引き起こす。
そのため、TPN中は、必ずビタミン剤を併用する。そうすることで、代謝性アシドーシスを起こすリスクを低減できる。
肝機能障害
絶食による胆嚢収縮能の低下や、糖質の過剰投与に起因して肝機能障害を起こすことがある。
TPN開始時に生じることが多く、投与速度の調整や、糖質の減量で改善を図る。
必須脂肪酸欠乏症
必須脂肪酸を含まないTPN製剤だけでは、TPN開始3~4週間で欠乏症が発生し、脂肪肝や肝機能障害を引き起こす。
そのため、脂肪乳剤を含まないミキシッド以外のTPN液投与時には、脂肪乳剤(イントラリポス)を併用することが推奨される。
長期留置によるカテーテル先端異常・血管穿孔
CVカテーテルの固定が緩み、先端位置が変わることがある。
まれに、カテーテル先端が血管壁を突き破り、TPN液の血管外漏出を起こすこともある。
固定は適切に行われているか、滴下は良好か、咳・喘鳴・呼吸困難度の症状はないか観察するとともに、定期的な胸部Xpでカテーテルの先端位置を確認する。
カテーテル関連血流感染症CRBSI
TPN中は、CVカテーテル挿入部からの感染(カテーテル関連血流感染症CRBSI:通称カテーテル熱)が起こりやすい。
敗血症や多臓器不全になる危険性があるので、基本的に、CRBSIが疑われたらすぐにカテーテルは抜去し、抗生剤の投与を行う。
TPN施行中の看護
感染管理
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)予防のため、週に1~2回、曜日を決めて刺入部の消毒、ドレッシング剤の交換を行う。
ルート交換時や接続時には無菌操作を徹底する。
CVC挿入部は毎日観察し、発赤・腫脹などの感染徴候に注意する。
ただし、CRBSIは、刺入部の感染徴候は見られないことが多く、急な発熱・悪寒・戦慄などの症状が特徴。
CRBSIが疑われると、末梢血管・CVカテーテル内・カテーテル先端の培養検査や尿検査を行うことが予測されるので、準備しておく。
滴下速度の確認
大量補液による高血糖、滴下不良による低血糖を予防するために、定期的に滴下速度・輸液バックの残量を確認する。
カテーテルの血管外漏出時にも、滴下不良が認められるので注意する。
血糖チェック
TPN中は、定期的に血糖をチェックを行い、 口渇・多尿・体重減少・倦怠感などの高血糖症状を見逃さない。
電解質をチェック
亜鉛不足やビタミン不足、低リン血症、カリウムの変動がみられることがあるので、定期的な血液検査で電解質をチェックする。
in/outバランスのチェック
水分出納バランスがくずれると、さまzまな機能障害を呈するため、水分出納はほぼ平衡になるよう管理する。