閉塞または狭窄している冠動脈にステントやバルーンを挿入し、血管内腔を広げることで、血流を改善させる治療法。
日本では、急性心筋梗塞(AMI)に対して行う再灌流療法の第一選択となっている。
病変部 | PCI | CABG | |
---|---|---|---|
1枝・2枝病変 | LAD近位部病変あり | ⅠA | ⅡbC |
LAD近位部(入口を除く)病変あり | ⅠC | ⅠA | |
LAD入口部病変あり | ⅡbC | ||
3枝病変 | LAD近位部病変なし | ⅡbB | |
LAD近位部病変あり | ⅢB | ||
保護されていない 左主幹部病変 |
入口部、体部の単独病変あるいは+1枝病変 | ⅡbC | |
分岐部病変の単独病変あるいは+1枝病変 | ⅢC/ⅡbC | ||
多枝病変 | ⅢC |
引用:安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン【2011年改訂版】
PCIでバルーン拡張が主流であった少し前までは、保護されていない左主幹部病変や3枝病変は原則CABGが選択されたが、上の表を見てわかるように、現在ではPCIの適応が広がり、3枝病変も病変部によってはPCIが施行されるようになっている。
A | 複数のランダム化試験(客観的に治療効果を評価することができる試験)あるいはメタ解析(複数の研究結果を統計して、より質の高い結果を得る方法)の結果によるもの |
---|---|
B | ひとつのランダム化試験または他施設・大規模レジストリ―研究の結果によるもの |
C | 専門家および小規模臨床試験、サブ解析結果等で意見が一致しているもの |
Ⅰ | 治療が有効というエビデンスがあるか、専門家の意見も広く一致している |
---|---|
Ⅱa | エビデンスや専門家の意見から、治療が有効である可能性が高い |
Ⅱb | エビデンスや専門家の意見から、治療の有効性が、ほとんど確率されていない |
Ⅲ | 治療は有効ではなく、時に有害というエビデンス・意見が多い |
橈骨動脈、上腕動脈、大腿動脈から穿刺する。
→穿刺部位や選択方法については、『冠動脈造影(CAG)』を参照。
穿刺部を局所麻酔後に、シース(カテーテルなどの挿入口となるブラスチック製のデバイス)を血管内に挿入する。
ガイディングカテーテルを、シースから血管内に挿入し、冠動脈の入口まで進める。
ガイディングカテーテルから造影剤を流し、透視下で病変部を確認する。
ガイディングカテーテル内にPCI用ガイドワイヤーを通す。
そのまま曲がりくねった冠動脈を進めて、狭窄部を通過させるとても難しい手技となる。
PCI用ガイドワイヤーは種類が豊富で、病変部に適したものが選択される。
IVUS(アイバス)は超音波カテーテルを用いて、血管内腔の状態を観察する検査。
バルーンやステントのサイズや石灰化の有無を確認することができる。
PCI用ガイドワイヤーを軸に、バルーンを挿入し、加圧器(インデフレーター)を用いて、バルーンを膨らませながら狭窄部の拡張(前拡張=プレ)を行う。
拡張を終えたら、バルーンをしぼめて抜く。
ステント付きのバルーンを挿入し、加圧器(インデフレーター)を用いて、バルーンとステントを拡張させる。
その後、バルーンのみ抜去し、ステントのみを留置する。
病変部が石灰化しているときには、血管内を削るロータブレータというカテ―テルを使用することも。
ステントで血管内腔がしっかりと広がっているか確認する。
広がりが悪ければ、バルーンをもう一度膨らませて、拡張(後拡張=ポスト)する。
造影剤を流し、最終確認。
カテーテルやシースを抜去し、穿刺部は止血デバイス(TRバンドやとめ太くん)を用いて圧迫止血する。
局所麻酔による痛みや、過度な緊張により迷走神経反射が起こり、徐脈と血圧低下を呈することがある。
検査中に冠動脈に注入するヨード造影剤は、アレルギーを起こす危険性がある。
症状は、軽い皮疹程度のものから、重症例では、アナフィラキシーショックや心停止に至ることも。
治療中の一時的な冠動脈の血流途絶により、発作性上室頻拍(PSVT)、心房細動(Af)、心房粗動(AFL)、心室頻拍(VT)、心室細動(VF)などの不整脈が起こることがある。
PSVT、Af、AFLでは動悸、VTやVFでは意識消失や痙攣が起こる。
VTでは血圧低下、VFは呼吸停止、ショックとなるため早急な対応が必要となる。
ガイドワイヤーの挿入やバルーン拡張の手技により、血管内が裂ける冠動脈解離、血管に穴が開く冠動脈穿孔、血管が破裂する冠動脈破裂を起こす危険性がある。
穿孔・破裂が起きた場合には、心嚢内に血液が溜まり心タンポナーデを合併することがある。
治療中は抗凝固療法を行うことも多いので、治療直後やシース留置中は穿刺部から出血を起こしたり、皮下出血が出現することがある。
バルーン拡張術のみのでは再狭窄を起こす確率が高かったが、今はステント留置により冠動脈閉塞の合併症は格段に減少した。
しかし、ステント留置後にもステント内に血栓(ステント血栓閉塞)を生じることがある。24時間以内に発症する場合(急性血栓症)が多く、2~30日以内に発症する(亜急性血栓症)頻度は約1%と言われている。
穿刺部によって、使われる止血用具や圧迫時間は異なるため、院内のプロトコールや医師の指示に従い、減圧や圧迫の解除を行う。
→各穿刺部の止血用具については、『検査ー冠動脈造影(CAG)』参照
安静度は穿刺が上肢であれば2~3時間、大腿であれば6時間は安静が必要となる。安静時は食事・排泄も床上となるため、適宜介助する。
特に安静が長くなる大腿穿刺の場合、腰痛が出現しやすいので、腰の下にクッションを入れたり、マッサージを行い苦痛の軽減を図る。
それでも改善されなれば鎮痛剤も考慮する。
PCI後は抗血栓療法を行うため、圧迫止血や不十分な場合や、患者の安静が守れない場合には、出血を起こしたり、血腫を形成する場合がある。
患者には、穿刺部を屈曲しないように説明し、止血部の減圧や解除を行うときには、慎重に行い、出血する場合には再度加圧し止血を図る。
治療後1~2時間後から食事摂取ができる。
(水分は直後から摂取可能)
治療後は、臥床したままの食事となったり、利き手が使えなくなったりするので、食べやすいおにぎりやパンなど、患者の状況に合わせて食事内容に変更しておく。
検査で使用する造影剤は、長期間体内に残ることで、腎機能の悪化を招くことがあるため、早く排泄するために、十分な水分補給が必要となる。
特に、腎機能障害や脱水、糖尿病の患者は造影剤腎症を引き起こす危険性が高いので、水分摂取を促したり、十分な輸液・利尿を行い、尿量と尿比重、腎機能を適宜チェックする。
治療後は、血栓や冠動脈攣縮により、冠動脈閉塞を起こすことがあるため、12誘導心電図モニターをとり、24時間はモニター心電図で観察する。
発見が遅れるとショックとなり命に関わるため、胸部症状やST変化、バイタルサインに十分注意する。