冠動脈造影(CAG)とは?
CAG(シーエージー)は、心臓カテーテル検査(心カテ)の一つで、橈骨動脈や上腕動脈または大腿動脈から冠動脈までカテーテルを挿入し、冠動脈に造影剤を流すことで、冠動脈の閉塞・狭窄部位を確認する検査。
CAGの目的
心臓のポンプ機能の評価
弁の状態や心臓の収縮機能を知り、左心室機能を評価する。
冠動脈の狭窄や閉塞の有無や程度・部位を知る
狭心症や心筋梗塞を診断することができる。またカテーテル治療後の再狭窄などの有無を調べることができる。
→冠動脈の解剖を詳しく見る
診断に基づいて治療方針を決定する
診断によって、PCIや冠動脈バイパス術といった治療を行う。
穿刺部位とその特徴
冠動脈造影を含め、心カテで心臓へアプローチする動脈は、体表から触知しやすくて、穿刺による合併症が少ない、以下3つの動脈が選ばれる。
1、橈骨動脈(radial:ラディアル)
- 出血が少なく、止血も用意
- 術後の安静時間が短い
- 血管が細く、穿刺が比較的難しい
- スパズム(動脈攣縮)が起こりやすい
2、上腕動脈(brachial:ブラキアル)
- 橈骨動脈より血管が太い
- 術後の安静時間が短い
- 正中神経が近く、穿刺が難しい
3、大腿動脈(femoral:フェモラル)
- 血管が太く、シースサイズに制限がない
- 穿刺が用意
- 術後の安静時間が長い
CAGの合併症
1、カテーテル挿入部位の合併症
- 動脈塞栓症・閉塞
- 内剥離
- 穿刺部からの出血
- 動脈離断
- 仮性動脈瘤
2、造影剤による合併症
- アナフィラキシーショック
- その他アレルギー症状(蕁麻疹・嘔気・発熱など)
- 腎機能の悪化
3、心臓および大血管の穿孔
- 心タンポナーデ
4、不整脈
- 心室細動・徐脈・心停止
- 心室性頻脈
- 心室性期外収縮
- 上室性期外収縮
- 心房細動
5、感染
- 発熱
- 細菌性心膜炎
- 敗血症など
CAG前の看護
説明と確認
検査について十分に説明をする
医師から十分な説明を受け、同意書は取れているかを確認。
また看護師からも検査の目的や方法、術前・術後の経過について十分説明し、最終的に、不安や疑問がないか確認を行う。
血液データの確認
腎機能・凝固機能・感染症・造影剤や局所麻酔のアレルギーを確認し、患者が合併症を起こすリスクを把握するほか、検査が可能な状態であるのか看護師の目でもきちんと確認する。
内服薬・中止薬の確認
内服薬は基本的に中止する必要はないが、ビグアナイド系糖尿病薬は造影剤との併用で乳酸アシドーシスを起こす危険性があるため、検査前後48時間は中止する。抗凝固薬や抗血小板薬は場合によって中止することがあるので、患者の内服薬を確認し、医師の指示を確認する。
検査前の1食を中止する
午前の検査であれば飲食は前日の夕食までで朝食を中止。午後の検査であれば飲食は当日の朝食までで昼食は中止する。
検査前の処置
剃毛
大腿動脈から穿刺時だけでなく、橈骨・上腕動脈からの穿刺時も、テープ固定で体毛が巻き込まれることがあるので、必要であれば剃毛する。
化粧・マニキュアの除去
顔色の観察やサーチレーションモニターの妨げになるため必ず除去する。
静脈路の確保
左上肢に18~20Gのルートを確保し、点滴を繋げる。
穿刺する動脈の触知
穿刺部位が決定したら、穿刺部の動脈を触知し、動脈閉塞がなく触知可能かどうかを確認しておく。
末梢動脈の触知・マーキング
術中の血栓形成により動脈塞栓症や閉塞を起こと、末梢動脈の拍動が消失し冷感・痛みを生じる。そのため、末梢循環の評価のために、上腕動脈から穿刺する場合には橈骨動脈、大腿動脈から穿刺する場合には足背動脈を触知し、マーキングをしておく。また、受け持ちが変わっても評価できるよう、拍動の強さも観察し、記録しておく。
尿道カテーテルの挿入
必ずしも必要ではないが、院内の決まりや医師の指示に従って、尿道カテーテルを挿入する。
直前には装飾品、貴重品を取り除く
検査室へ行く前には、義歯、指輪、ヘアピン、ネックレス、眼鏡、コンタクト、その他貴重品は体から外しておく。
着替え
肌着を脱いで(大腿からの場合は、下着も脱いで前張りをする)、必要であれば上下の寝衣から長い寝衣に着替えを済ませておく。
CAG後の観察と看護
バイタルサインのチェック
合併症の早期発見のために、定期的にバイタルサインを測定する。検査後は不整脈も出やすいので、心電図モニターを装着して心電図波形も観察する。
穿刺部位の圧迫固定
圧迫・固定が解除されるまで、穿刺部位に応じて適切な圧迫・固定がされているか確認する。
大腿動脈の場合
十分な用手圧迫後、大腿動脈の穿刺部に小瓶を置き、その上からテープや固定バンドを腸骨に引っ掛けながらクロスさせるようにして圧迫する。
圧迫時間は、2時間~翌朝までと施設や患者の状態により異なるため、医師の指示に従う。ただ6時間以上の圧迫は静脈血栓を生じ、肺塞栓の原因になると言われている。
橈骨動脈の場合
TRバンドとは、橈骨動脈の穿刺部を圧迫止血するための器具で、バンド内のバルーンに、専用注射器を用いてエアーを入れることで、穿刺部を圧迫止血することができる。
止血のプロトコール(規定や手順)は、施設や患者の状態により異なるが、検査後1時間おきに2㏄減圧、4時間~翌朝圧迫解除というように再出血がないか確認しながら少しずつ減圧していく。
上腕動脈の場合
上腕動脈や橈骨動脈の穿刺時には、『とめた君』という、止血バッグと加圧器がセットになった止血器具を使用することが多い。これは、エアーで穿刺部を直接圧迫するもので、エアーの量を増減して圧迫する圧を調整できるようになっている(圧迫時間の目安は下の表参照)。
設定圧 | 設定圧 | |
---|---|---|
第1期減圧 | 収縮期圧+10~20mmHg | 3~15分 |
第2期減圧 | 収縮期圧と拡張期圧の中間圧 | 15~60分 |
第3期減圧 | 拡張期圧-10mmHg | 15~60分 |
第4期減圧 | 10~20mmHg | 適宜解除 |
(取り扱い説明書より引用)
安静の保持・患者の苦痛
安静時間は施設や患者の状態により異なるが、一般的に、橈骨・上腕動脈は検査後から病棟内歩行可能で、大腿動脈は約5時間~翌朝までベッド上安静が必要となるため、患者への負担も大きい。
特に腰痛が出現しやすいため、腰の下にクッションを入れたり、マッサージを行い苦痛の軽減を図る。それでも改善されなれば鎮痛剤の使用も考慮する。
穿刺部位の出血、血種の有無
圧迫解除時は、特に再出血の危険性が高いので、注意しながらゆっくりと解除する。再出血を認める場合には、再度圧迫固定を行う。
また、穿刺部周囲に血種を形成している場合には、マーキングを行い、血種が同大していないか、神経症状(痺れや知覚障害)が出現していないか観察する。
末梢循環
『術前の処置』でマーキングしておいた末梢動脈を触知し、拍動の強さに変化がないか、冷感・痛み・痺れ・チアノーゼの出現はないか確認し、末梢循環を評価する。
水分出納
CAGで使用する造影剤は、腎機能の悪化を招く危険性があるため、十分な補液と利尿が必要となる。尿量と尿比重(造影剤が含まれると尿比重が高くなる)を確認し、尿比重が正常値(基準値1.010~1.030)に戻るまで十分に水分補給を行う。
造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン(Cr)値が検査前より0.5mg/dL以上または25%以上増加した場合は『造影剤腎症』と診断される。