抗認知症薬について
抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせ、認知機能の低下を緩和するための薬。
日本で使用されるのは、ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン・メマンチンの4つの薬剤のみだったが、2023年に新薬レカネマブが承認された。
この主要4剤と新薬の作用機序・特徴についてまとめる。
1,ドネペジル
商品名
- アリセプト錠
- ドネペジル塩酸塩錠など
作用機序と効果
「コリンエステラーゼ阻害薬」に分類される薬。
学習記憶や認知機能に関係する神経伝達物質「アセチルコリン」を分解する酵素「アセチルコリンステラーゼ」の働きを阻害することで、アセチルコリンの量を増やし、神経の働きをよくする。
それにより、記憶障害や認知機能の低下の進行を遅らせる効果がある。
適応
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
主な副作用
- 消化器症状…嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振
- 発疹・掻痒感
- 徐脈
- めまい・失神・頭痛
- 胃・十二指腸潰瘍
- 睡眠障害…不眠や悪夢
- 興奮・不穏・攻撃性
2,リバスチグミン
商品名
- リバスチグミンテープ(貼付薬)
- リバスタッチ(貼付薬)
- イセクロンパッチ(貼付薬)
作用機序と効果
「コリンステラーゼ阻害薬」の一種で、ドネペジルと同様に脳内のアセチルコリンの分解を抑える。
さらに、ブチリルコリンエステラーゼという酵素も阻害し、より広範囲で神経伝達物質の分解を抑制する働きがある。これにより、神経伝達が良くなり、認知機能の低下の進行を遅らせる効果が期待される。
適応
- 軽度~中等度のアルツハイマ―型認知症
主な副作用
- 消化器症状…嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振
- 徐脈
- めまい・失神・頭痛
- 皮膚の発赤や掻痒感(貼付剤による)
3,ガランタミン
商品名
- レミニールOD錠
- レミニール内服液
作用機序と効果
前項のドネペジル・リバスチグミンと同様、「コリンステラーゼ阻害薬」に分類される薬で、アセチルコリンを増加させて記憶障害などの進行を抑制する。
ガランタミンには、もう一つの作用として、ニコチン性アセチルコリン受容体を刺激する作用がある。これにより、神経伝達がさらに改善され、認知機能への効果が増強されると考えられている。
適応
- 軽度から中等度のアルツハイマー型認知症
主な副作用
- 消化器症状:嘔気・嘔吐、下痢、食欲不振が比較的多い。
- 徐脈
- めまいや失神
- 睡眠障害:不眠や悪夢
- 発疹・掻痒感
4,メマンチン
商品名
- メマリー
- メマンチン塩酸塩OD錠など
作用機序と効果
メマンチンは、「NMDA受容体拮抗薬」に分類される薬。
アルツハイマー型認知症は、記憶や学習に関与する神経伝達物質『グルタミン酸』の受容体であるNMDA受容体が過剰に刺激されることで、Caイオンの過剰な流入が起きる。
過剰なCaイオンの流入は、神経細胞にとって負担が大きく、長期的に神経細胞の障害や死を招き認知症を進行させる。(神経興奮毒性と言う。)
メマンチンは、NMDA受容体に結合したり離れたりすることで、正常なシグナルは伝えながら、過剰な活動のみをブロックし、神経細胞を保護する。これにより、認知症の進行を遅らせる効果が期待される。
適応
- 中等度から高度のアルツハイマー型認知症
- 興奮や攻撃性、妄想といった行動・心理症状(BPSD)
主な副作用
- めまい… 治療開始時に多い。転倒に注意が必要。
- 頭痛
- 便秘
- 高血圧
- 眠気
- 興奮や幻覚…頻度は低い。
【2023年の新薬】レカネマブ
エーザイ(日本)とバイオジェン(米国)が共同開発した薬で、2023年に日本でも承認された。『アルツハイマー病の原因に働きかける世界ではじめての治療薬』として高い効果が期待されるが、現在のところ、保険適用はされていないため、1ヶ月あたり30万円、年間の治療費は約360万円ほどかかる。
(保険適応後でも3割負担だと、9万円‥‥。)
商品名
- レケンビ(点滴)
▶【エーザイ】レケンピ点滴静注500㎎の商品ページへ
作用機序と効果
アルツハイマー型認知症は、脳の中にアミロイドβ(Aβ)という蛋白がたまることで、脳の神経細胞がダメージを受け、認知機能の低下や記憶障害が生じると考えられている。
レカネマブは、このアミロイドβに結合する抗体。結合することで、脳の免疫細胞がアミロイドβを異物と認識しやすくなり、貧食(免疫が異物を取り込んで分解する働き)によって、アミロイドβが脳内から除去される。
結果として、脳へのダメージが減り、認知機能の低下を遅らせることができる。
適応
- 軽度認知障害または軽度アルツハイマー型認知症
- アミロイドPET検査や脳髄液検査でアミロイドβの蓄積が認められた人
主な副作用
アミロイド関連画像異常(ARIA:Amyloid-Related Imaging Abnormalities)
レカネマブの治療で特に注目される副作用。MRIで確認できる脳内の浮腫や微小出血で、軽症であれば無症状の場合もあるが、場合によっては頭痛や意識障害、けいれんなどの症状を引き起こすことがある。
頭痛
頭痛は比較的よく見られる副作用の一つであるが、通常は軽度である。
転倒リスクの増加
一部の研究では、転倒リスクが増加する可能性が指摘されており、高齢者では特に注意が必要である。
過敏反応
注射部位反応やアレルギー反応が稀に見られることがある。