オピオイドとは?
オピオイドとは、麻薬性鎮痛薬のこと。
手術中・後、分娩時の痛み、がん性疼痛など、他の治療で十分な鎮痛効果が得られない疼痛が適応となる。
オピオイドの分類
オピオイドの中にも、効果の強さによって、弱オピオイドと強オピオイドの2種類があり、下記の『WHOの3段階除痛ラダー』にのっとり使用される。
WHO 3段階除痛ラダー
WHOが合理的かつ効果的に鎮痛剤が使用できるように作成したガイドライン。患者が感じている痛みの強さを3段階に分け、その段階に応じて使用できる鎮痛剤が示されている。
基本的には、弱オピオイドは2段階目(軽度~中等度の痛み)に使用され、強オピオイドは、3段階目(中等度~強度の痛み)に対して使用される。
オピオイドの作用機序と特徴
オピオイドは、基本的に体内に取り込まれて血中に移動した後、中枢神経にあるオピオイド受容体に作用することで、鎮痛効果が得られる。
その後、肝臓で代謝されて腎臓と通して排泄される。
各オピオイドの特性は、作用するオピオイド受容体や、代謝産物の薬物活性(※1)により異なってくる。
4つのオピオイド受容体
オピオイド受容体は、μ(ミュー)、K(カッパ)、δ(デルタ)の3種類があり、μはμ1,μ2の2種類に分かれる。
それぞれ作用するオピオイドは、上図で示した通りである。
モルヒネは、他のオピオイドに比べ、多くの受容体に作用するため、その分副作用も出現しやすい。
代謝産物の薬物活性(※1)
薬物の多くは、代謝を受けると無効な代謝産物として変化して腎臓から排泄されるが、生体内で有効(または有毒)な代謝産物に変化する場合がある。
麻薬の場合、代謝産物の薬物活性により鎮痛効果の増強や副作用の出現に関連してくる。
オピオイドのうち、代謝産物の薬物活性があるのは、モルヒネ。
モルヒネの代謝産物であるM6G、M3Gと呼ばれるものには、鎮痛や眠気などの作用があり、腎機能が低下している場合には、この代謝産物が蓄積するため副作用が強く出現する危険性がある。
オピオイドの投与経路と代表的な薬
経口投与
- モルヒネ(MSコンチン、ピーガード、オプソなど)
- オキシコンチン
オピオイドの投与経路は、簡便かつ患者に苦痛を与えないため、可能な限り経口投与が推奨されている。
しかし、疼痛が強い場合や、末期患者では経口投与が困難な場合も多いため、投与経路を変更せざる負えない場合には、出来る限り患者に苦痛を与えない方法を選択する必要がある。
経皮投与
- フェンタニル(デュロテップパッチ)
デュロテップパッチは、72時間(3日)ごとの張り替えで、効果が持続するため、簡単で患者への負担も少ない。しかし、用量調整が難しいため、安易に増量すると重大な副作用を招く危険性があるため注意が必要となる。
直腸内投与
- モルヒネ(アンペック坐薬)
直腸投与が可能なオピオイドは、このアンペックのみ。
吸収が速やかで、投与後8時間まで血中濃度が保たれるため、用量により6時間~12時間の間隔で使用することができる。
投与経路として、ストーマからの投与も可能だが、安定した効果を得るためには肛門からが望ましいとされている。
持続皮下注/持続静注
- モルヒネ
- フェンタニル
- オキシコンチン
持続注射は、シリンジポンプ等を使用して24時間薬剤を投与し続ける方法。
持続投与のため、一定の血中濃度を保つことができ、副作用も出にくいとされている。
持続注射は、皮下注と静注の投与経路があるが、鎮痛効果はほぼ同じ。
皮下注の静注の違いは次の通りである。
持続皮下注の特徴
刺入・抜去時の痛みが少なく、抜針後もしばらく効果が持続するため、入浴などで一時的に抜針しても鎮痛効果はしばらく持続する。
ルートの刺入部位は、浮腫・炎症部位を避け、一定の血流が保たれている部位を選択することが大切で、一般的に動作の邪魔になりにくい前胸部や腹部に穿刺することが多い。
感染や出血などの合併症が少なく、1週間針を留置することができるため在宅の患者にも使用しやすい。
皮下注の欠点として、投与量が多いと刺入部の発赤・硬結を起こしやすいという点が上げられる。この場合リンデロンを混注して対応するが、それでも改善しない場合には、刺入部を頻回に変更する必要がでてくるため、静注への変更が必要となる。
持続静注の特徴
皮下注では対応できない大量のオピオイドを投与する場合に選択される投与方法。針の交換頻度も72時間と皮下注に比べ短く患者の苦痛も大きいことから、内服・経皮・皮下注などで対応できないときの最終手段となることが多い。
各オピオイドの特徴と効果
コデイン
コデインは、弱オピオイドのひとつで、3段階除痛ラダーの2段階目で使用される。
コデインが体内で吸収されて肝臓で代謝されると、一部がモルヒネに変換されて鎮痛効果を発揮する。そのため、効果・副作用は、少量のモルヒネと同等と考えられる。
投与経路 | 経口 |
---|---|
鎮痛効果 | モルヒネの1/10~1/6 |
発現時間 | 約30分 |
持続時間 | 4~6時間 |
オキシコドン
強オピオイドのひとつで、3段階除痛ラダーの3段階目で使用される。
オキシコドンは、肝臓でほとんどが代謝され、その代謝物にはモルヒネのような薬物活性(上記の『代謝産物の薬物活性』で詳しく説明)が少ないため、腎機能障害がある患者や高齢の患者に使いやすいとされている。
オキシコドンには経口剤(徐放性剤と速効性剤)と注射剤があり、それぞれ特徴がある。
1、オキシコドン徐放性剤【オキシコンチン錠】
オキシコンチン錠は、5㎎・10㎎・20㎎・40㎎の製剤があり、用量増加とともに鎮痛効果も増強する。低用量のものであれば2段階目から使用できる薬で、そのまま3段階でも使用できる。
また、徐放性製剤の特徴として効果のピークは2相性に現れ、1回目のピークは40~60分後に、2回目のピークは約6時間後だと言われている。
投与経路 | 経口 |
---|---|
鎮痛効果 | 経口モルヒネの1.5倍 |
発現時間 | 約1時間 |
最大効果 | ①40~60分後、②6時間後 |
持続時間 | 薬12時間 |
2、オキシコドン速効性製剤【オキノーム散0.5%】
オキノーム散は、2.5㎎・5㎎・10㎎の製剤があり、(※1)レスキューに有効とされている。
投与経路 | 経口 |
---|---|
鎮痛効果 | 経口モルヒネの1.5倍 |
発現時間 | 約15分 |
最大効果 | 100~120分後 |
持続時間 | 6時間 |
3、パビナール注
塩酸オキシコドン8㎎と塩酸ヒドロコタルニン2㎎を含む注射製剤。
適応としては、オキシコドンの内服が困難になった場合に、皮下注で投与できる。(2012年には静注できるオキシコドン注射製剤、オキファストも登場した。)
効果としては、パビナール注15㎎とオキシコンチン錠20㎎が同程度の効果とされており、オキシコンチンの内服からパビナールへ変更した時には、1:0.75~0.8で計算すると良いとされている。
モルヒネ
モルヒネは多くの製剤があるため、たくさんの投与経路・投与方法から選択することができる。
効果も強いが、その一方で代謝産物の薬物活性により副作用も強いため、使用の際には、副作用に対する対策や観察を行うことが重要となる。
1、モルヒネ徐放性製剤【MSコンチン】
臨床で最もよく使用されるモルヒネの内服薬で、モルヒネを徐々に放出するため、長時間の鎮痛効果を期待できる。
たいていは、朝・夕の1日2回で効果が持続するが、1日3回投与する場合もある。その鎮痛効果をみながら、20㎎、30㎎、40㎎…120㎎など用量を変更していく。
MSコンチンは、著しい脱水や下痢などがある場合、腸管からのモルヒネ吸収が阻害されて、十分な効果を発揮できない場合がある。
また、内服時に噛んだり分割すると、せっかくの徐放性機能が保たれなくなって、速く吸収されることで長時間の効果が得られないため、患者に噛んだり、割らないようあらかじめ説明しておく。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約70分後 |
最大効果 | 2~4時間後 |
持続時間 | 8~14時間 |
2、モルヒネ徐放性製剤【MSツワイスロンカプセル】
MSコンチンと同様に、1日2回で持続的効果が得られる。
このカプセル内には、徐放性顆粒がつまっているため、カプセルを外して胃瘻など経管栄養チューブから投与可能したり、ジュースやゼリーなどに混ぜて投与することも可能。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約60分後 |
最大効果 | 2~4時間後 |
持続時間 | 8~12時間 |
3、モルヒネ徐放性製剤【モルペス細粒】
MSコンチン等と同様に1日2回で効果が持続する。
モルペスの特徴として、モルヒネ製剤は特有の苦みがあるのだが、甘味料でコーティングされている顆粒のため、苦みを感じずに内服できる。
また、こちらの製剤も経管栄養チューブから投与できる。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約30分後 |
最大効果 | 2~4時間後 |
持続時間 | 8~14時間 |
4、モルヒネ徐放性製剤【カディアンカプセル/スティック粒】
カディアンは、1日1回の服用で鎮痛効果が持続するため、在宅でも管理しやすいというメリットがある。
カディアンカプセルの中に入っているものが、カディアンスティック粒であり、経管栄養チューブからの投与も可能。
ただし、つぶしてしまうと徐放性の性質が保てないため、つぶさずに投与する必要がある。鎮痛効果が不十分な場合には、レスキューを使用したり、カディアンの1回投与量をアップして対応する。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約40~60分後 |
最大効果 | 6~8時間後 |
持続時間 | 24時間 |
5、モルヒネ徐放性製剤【ビーガード錠】
こちらも1日1回の服用で鎮痛効果が持続するモルヒネ。
ビーガード錠は、モルヒネ徐放性製剤の中で最も半減期が長いため、血中濃度が24時間内で変化しにくく、安定した効果が得られるという点でも管理しやすい。
ただし、食事摂取によって薬の吸収が影響すると言われているため、食間(食後2~3時間後)の服用が望ましい。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約40~60分後 |
最大効果 | 2~4時間後 |
持続時間 | 24時間 |
6、モルヒネ徐放性製剤【パシーフカプセル】
こちらも1日1回の服用で鎮痛効果が維持できる薬。
パシーフカプセルの特徴として、カプセル内には徐放性と速放性の顆粒が含まれているため、他の徐放性製剤と比べて、効果の発現が早いと言われている。
ちなみに、パシーフカプセルも経管栄養からの投与が可能な薬だが、徐放性と速放性の2種類の薬が配合されているため、分割使用は避ける。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約30分後 |
最大効果 | 1時間後 |
持続時間 | 24時間 |
7、モルヒネ速効性製剤【モルヒネ塩酸塩水和物 末/錠】
モルヒネが粉末状になっているものが、モルヒネ塩酸塩水和物 末。
粉末を固めたのが、モルヒネ塩酸塩錠である。
臨床では、レスキューとして使われることが多い薬。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約10分後 |
最大効果 | 30~60分後 |
持続時間 | 3~5時間 |
8、モルヒネ速効性製剤【オプソ内服液】
モルヒネ特有の苦みを除き、甘味と酸味を添加した水様性の薬。
水なし服用できて、簡便に使用できる。
モルヒネだけではなく、オキシコドンやフェンタニルのレスキューとしても使用できるため、臨床でも比較的多く使用される薬。
投与経路 | 経口 |
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発現時間 | 約10分後 |
最大効果 | 30~60分後 |
持続時間 | 3~5時間 |
9、モルヒネ速効性製剤【モルヒネ塩酸塩注射液/アンペック注】
モルヒネ塩酸塩の注射剤タイプ。
経口モルヒネの2~3倍の効果が期待できて、持続皮下注や持続静注で使用される。
投与方法 | 静注・皮下注 |
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発現時間 | 直後~数分 |
10、モルヒネ速効性製剤【アンペック坐薬】
経直腸投与ができる唯一のオピオイド。
効果は経口モルヒネの1.5倍で、持続時間も長いため基本処方やレスキューとしても使用される。
投与経路 | 経直腸 |
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発現時間 | 約20分後 |
最大効果 | 1~2時間後 |
持続時間 | 6~10時間 |
フェンタニル
フェンタニルには、徐放性製剤である貼布剤と、速効性製剤である注射剤がある。
フェンタニルの鎮痛効果は、モルヒネの100倍以上とも言われているが、オキシコドンと同様にモルヒネのような薬物活性が少ないため、腎機能障害がある患者にも使いやすい。
1、フェンタニル徐放性製剤【デュロテップパッチ】
経皮投与ができる唯一のオピオイド。
大腿や前胸部、腹部、背部などに貼るだけで、貼り換えも72時間(3日)に1度でよいため、簡便で患者への負担も少ないため、よく使用されるオピオイドのひとつ。
ただし、鎮痛効果が非常に強いオピオイドのため、原則、はじめてオピオイドを使用する患者には使用できない。
投与経路 | 経皮 |
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発現時間 | 1~2時間後 |
最大効果 | 42~48時間 |
持続時間 | 72時間 |
2、フェンタニル速効性製剤【フェンタニル注射液】
フェンタニルの注射液で、持続皮下注・持続静注や、デュロテップパッチ使用時のレスキューとして使用できる。
投与経路 | 静注、皮下注 |
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発現時間 | すぐ |
持続時間 | 1~2時間 |