潰瘍性大腸炎(UC)の病態と看護計画

目次

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis, UC)は、大腸の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍を引き起こす病態。

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)の一種で、主に20歳前後の若年者に好発し、炎症と寛解を繰り返すことが特徴である。

原因

正確な原因は不明だが、以下の要因が関与していると考えられている。

  1. 遺伝的要因
    家族内発症の報告があり、遺伝的素因が関与するとされる。
  2. 免疫学的要因
    自己免疫反応により、腸粘膜を異物として捉え、炎症を引き起こすと考えられる。
  3. 環境要因
    食生活、喫煙、ストレスなどの生活習慣や環境因子が発症リスクを高める可能性がある。

病態生理

1,炎症反応

潰瘍性大腸炎の病態生理(炎症)

本来反応しない腸内細菌や食物成分に免疫システムが過剰に反応し、炎症性サイトカインが大量に放出される。これにより、炎症が直腸から大腸全体へと拡大していく。

➡解剖生理【大腸の構造と働き】を詳しく見る

2,粘膜の障害

潰瘍性大腸炎の病態生理(びらん・潰瘍)

炎症が続くと、びらんや潰瘍を形成し、出血や粘液の過剰分泌を起こす。

3,吸収不良

潰瘍性大腸炎の病態生理(吸収障害)

炎症により水分や電解質の吸収が妨げられ、下痢が起こる。

症状

消化器症状

  • 血便
    潰瘍性大腸炎の特徴的な症状で、鮮血交じりの便が見られることが多い。初期の段階では血の量は少ないこともあるが、進行とともに血便の頻度が増える。
  • 下痢
    頻回の水溶性の下痢や粘液を伴う下痢がみられる。夜間の排便があるのも特徴。
  • 腹痛
    排便前に腹痛が増強し、排便後に一時的に軽減することがある。
    炎症が広がるほど痛みは強くなる傾向がある。
  • 残便感
    直腸の炎症が原因で完全に排便できていない感覚を引き起こす。

全身症状

  • 発熱
    中等度以上では、大腸の炎症により発熱を伴う。
  • 倦怠感
    慢性の炎症であったり、栄養の吸収不良、貧血により引き起こされる。
  • 体重減少
    頻回の下痢や食欲不振や栄養の吸収不良により、体重が減少する。

病期分類

  • 活動期:炎症が進行している状態で、症状が出現する。
  • 寛解期:炎症がほとんど治まっている状態で、症状が軽減または消失する時期。

重症度分類

スクロールできます
重症中等症軽症 
排便回数6回以上重症と軽症
との中間
4回以下
血便++++~-
発熱37.5度以上
頻脈90回/分以上
貧血10g/dl以下
赤沈
CRP
30㎜/h以上
3.0㎎/dl以上
正常

重症:①と②、③or④は絶対条件。かつ6項目中4項目以上を満たす。
軽症:①~⑥すべての条件を満たすもの

検査

血液検査

炎症反応(CRP、赤沈値の上昇)、貧血、白血球増加などを確認する。

便検査

便潜血反応のチェックや感染症の除外をする。

内視鏡検査

大腸内視鏡検査(US)で潰瘍、びらん、粘膜の発赤・浮腫を確認し、生検で病理検査を行う。

画像検査

腹部X線検査では、中毒性巨大結腸症や穿孔の評価が可能である。

一方、CTやMRIでは腸壁の肥厚や炎症の広がりを詳細に確認できる。

さらに、注腸造影検査では、大腸の正常なハウストラ(腸管のモコモコした形状)が消失し、ストレートな鉛管像(lead pipe appearance)として観察されることがある。

この所見は、炎症が粘膜下層や筋層にまで進展し、筋層が破壊されることによって生じる。ハウストラ消失は、一般的に中等症から重症の症例で認められる。

診断

日本消化器病学会のガイドラインでは、診断基準として以下の項目が挙げられている。

  • 臨床症状:血便、下痢、腹痛などの持続。
  • 内視鏡所見:直腸から連続的に広がる粘膜の発赤、びらん、潰瘍。
  • 病理組織学的所見:粘膜層に限局した炎症細胞浸潤、陰窩膿瘍の存在。

これらの所見を総合的に評価し、他の炎症性疾患や感染症を除外することで診断が確定される。

治療

薬物療法

潰瘍性大腸炎は、薬物療法がメインとなる。聞きなれない薬剤も多いため、まずは主な薬剤の特徴をまとめる。

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薬剤作用と特徴一般名(商品名)と投与経路副作用
5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)
大腸の炎症を抑える第一選択薬メサラジン(ペンタサ、アサコール、リアルダ):経口、坐剤、注腸
スルファサラジン(サラゾピリン):経口
発熱を含むアレルギー反応を認めることがある
ステロイド強力な抗炎症作用ありプレドニゾロン(レドニン):経口
ベタメタゾン(リンデロン):坐剤
ヒドロコルチゾン(プレドネマ、ステロネマ):注腸
ブデソニド(レクタブル):注腸フォーム剤
長期使用で骨粗鬆症、糖尿病、感染症リスク増加が生じる可能性がある
免疫調整薬・長期的な免疫抑制効果を持つ
・効果が出るまで数か月かかる
アザチオプリン(イムラン、アザニン):経口骨髄抑制や肝障害に注意が必要
生物学的製剤・炎症性サイトカインを阻害し、速やかに炎症を抑制できる
・高価
インフリキシマブ(レミケード):点滴静注
アダリムマブ(ヒュミラ):皮下注射
ゴリムマブ(シンポニー):皮下注射
副作用に感染症リスクあり。

「直腸炎型」の治療

病変が直腸に限局している直腸炎型は、炎症部位に直接作用する、5-ASA製剤座薬注腸剤が効果的。

「左側大腸炎型」の治療

潰瘍性大腸炎(左側大腸炎型)

病変が直腸から脾彎曲部(横行結腸と下行結腸の移行部)まで広がる左大腸炎型は、5-ASA製剤経口投与注腸剤の併用が推奨される。

症状が強い場合は、ステロイド療法を併用する場合もある。

「全大腸炎型」の治療

潰瘍性大腸炎(全腸炎型)

病変が大腸全体に及ぶ全大腸炎型は、5-ASA製剤の経口投与が基本となり、活動性が高い場合はステロイドの経口投与や点滴静注が考慮される。

ステロイド依存性や効果不十分な場合には、免疫調整薬生物学的製剤を使用する。

外科的療法

UCの患者のうち、手術が必要となる割合は約10%。
内科的治療が効果を示さない場合や、後述する中毒性巨大結腸症や大量出血など重篤な合併症が発生した場合に適応となる。

大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IAA)

大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IAA)

直腸の粘膜を含む大腸全体を摘出し、小腸の末端である回腸を肛門と接続する手術で、最も多い術式。

具体的には、回腸の末端を15~20㎝程折り返し、「J字型」の貯留嚢(Jポーチ)を作成する。これが、大腸の代わりに便を一時的に貯留する役割をはたす。

肛門括約筋が温存できるため、排便機能が維持できる。術後、回腸と肛門の吻合部に縫合不全などの合併症を起こさないために、一時的な回腸人工肛門を造設することが一般的。これは、6~12週間程で閉鎖される。

大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術(IACA)

大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術(IACA)

大腸全体を摘出し、回腸で貯留嚢(Jポーチ)を作成するのはIAAと同様であるが、こちらは、肛門ではなく肛門管と接続する。肛門管粘膜を温存することで、肛門機能が保たれ、失禁の頻度も少ないとされている。

ただし、残った粘膜の炎症再燃や癌化のリスクが懸念される。また手術も技術的に複雑。

結腸全摘・回腸直腸吻合術

直腸の炎症が軽度の場合や高齢者に適用されることがある。排便機能は良好であるが、残存直腸の再燃や癌化の可能性があるため、術後の管理が重要である。

大腸全摘・回腸人工肛門造設術

肛門温存が不可能な場合や、肛門機能が不良な場合、高齢者などに適用される。

合併症

中毒性巨大結腸症

大腸に強い炎症が起きた結果、腸管が麻痺し、便やガスが貯留することで、腸管が過度に拡張した状態。
穿孔や敗血症を引き起こす重篤な状態であり、絶食・輸液・抗菌薬・ステロイド投与、場合によっては緊急手術を要する。

腸管の拡張(直径6㎝以上)や臨床症状によって評価、診断される。

大腸穿孔

炎症の進行や、前項の中毒性巨大結腸症により大腸壁に穴が空いた状態
腸内容物が腹腔内に漏れ出すと、腹膜炎を引き起こし、敗血症や多臓器不全を伴い命に係わる危険があるため、緊急手術と厳重な全身管理が必要となる。

出血性ショック

多量に下血により循環不全を引き起こすことがある。
補液、輸血、大腸カメラでの止血、必要に応じて手術が検討される。

大腸癌

長期間大腸に炎症が続くことで、癌化のリスクが上昇する。

発症リスクは罹患期間が10年以上の場合に特に高まる。

看護計画

目標設定

短期目標

  • 患者が下痢や腹痛などの急性症状を軽減し、日常生活を送れる状態に近づける。
  • 水・電解質バランスを維持し、脱水や貧血を防ぐ。

長期目標

  • 再燃を予防し、寛解期を維持できるようにする。
  • 患者が病気を理解し、自己管理を通じてQOLを向上させる。

O-P(観察計画)

  1. バイタルサイン(体温・脈拍・血圧)の異常の有無
  2. 呼吸状態
  3. 腹痛、腹膜刺激症状(筋性防御、圧痛)の有無、程度
  4. 排便の状態(下痢の回数、性状、血便の有無)
  5. 脱水症状(口渇感、皮膚の乾燥、尿量の減少)
  6. 炎症反応(白血球数、CRPの上昇)
  7. 貧血(Hb、Hct値の低下)
  8. 電解質バランスの異常(ナトリウム、カリウム値)
  9. 栄養状態(アルブミン値、体重変化)
  10. 画像所見(X線検査で大腸の拡張の有無)
  11. 心理状態(不安やストレスの有無、程度)

T-P(援助計画)

  1. 薬物療法の補助
    ・5-ASA製剤、ステロイド、免疫調整薬、生物学的製剤の投与補助
    ・副作用の観察と管理
  2. 栄養管理
    ・低残渣食、低脂肪食の提供
    ・必要に応じた経腸栄養や中心静脈栄養(TPN)の実施
  3. 排泄援助
    ・頻回な下痢に伴う排泄ケアの提供
    ・肛門周囲の洗浄と保湿ケア、皮膚障害予防
  4. 疼痛緩和
    ・疼痛を軽減するための適切な体位の指導(膝胸位、側臥位など)
    ・必要に応じた鎮痛薬の使用
  5. 安静の確保
    ・消化管への負担を減らすための安静指導
    ・環境調整(静かな環境の提供)
  6. 感染予防
    ・ステロイドや免疫抑制薬使用時の感染リスクの低減(手洗い指導、隔離の適応判断)

E-P(教育計画)

  1. 潰瘍性大腸炎の病態や治療法についてわかりやすく説明し、患者の理解を促す。
  2. 再燃を予防するための食事指導(低残渣食や適切な栄養摂取の重要性)。
  3. 服薬アドヒアランスを高めるため、薬の服用方法と副作用管理を指導する。
  4. ストレスが再燃の引き金となることを説明し、リラクゼーション法やカウンセリングを推奨する。
  5. 症状記録(日記やアプリの活用)を勧め、再燃の早期発見に役立てる。

まとめ

潰瘍性大腸炎は、患者の生活に大きな影響を及ぼす慢性疾患であるが、適切な治療と看護ケアにより、症状のコントロールや生活の質の改善が可能である。患者とその家族を支える包括的なケアが重要であり、個別性を重視した支援が求められる。

参考文献

  1. 日本消化器病学会編
    『潰瘍性大腸炎診療ガイドライン 2020』医学書院、2020年
  2. 厚生労働省 難病情報センター
    「潰瘍性大腸炎」
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/45 (2024年11月アクセス)
  3. 日本消化器内視鏡学会編
    『消化器内視鏡ガイドライン』南江堂、2019年.
  4. 川口善治ほか
    「潰瘍性大腸炎における免疫療法の進展」
    『日本臨床免疫学会雑誌』Vol.43, No.5, 2021年, pp. 380-392.
  5. WHO
    “Global Guidelines for the Treatment of Inflammatory Bowel Diseases”
    World Health Organization, 2021.

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