神経障害(麻痺)は、外傷やギブスの圧迫など、整形系の疾患で多くみられる症状。一度、神経障害(麻痺)が起きると機能回復が困難となる場合もあるため、予防のための対応と、日々の観察による早期発見が重要となる!
橈骨神経麻痺
橈骨神経とは?
橈骨神経は、腋窩あたりから、腕の骨を巻き込みながらグルりと走行し、手関節の親指側で表面に出てくる神経。
手関節の伸展、指の屈曲・伸展、回外運動などの支配する他、上腕・前腕・手背の感覚をつかさどっている。

原因
- 腋窩~上腕中央の長時間の圧迫
(腕枕や、飲酒後のうたた寝などで起こる) - 上腕骨骨幹部骨折
- 肩関節の脱臼
- 注射・採血など
症状
肘関節より抹消での圧迫
手関節は伸展できるが、MP関節は伸展できず、指のみが下垂。
→下垂指という。

肘関節より中枢での圧迫
手関節もMP関節の伸展できず、手関節と指が下垂。
→下垂手という。

観察ポイント
- MP関節は伸展できるか
- 手関節は伸展・背屈可能か
- 下垂手は起こしていないか
- 母指は外転可能か
- 手の甲~母指に感覚障害を生じていないか
予防
- ギブス固定時には、ギブス固定後に手指の運動や知覚異常がないか確認する。
- 注射時は、手関節撓側は避ける。
治療
経過観察や保存療法で治ることがほとんどだが、重症の場合には回復が困難な例もある。
保存療法
安静、ビタミン剤(神経再生薬)の内服、リハビリなど。
手術
保存療法で症状が改善しない場合や重症の場合には神経開放術が行われる。
正中神経麻痺
正中神経とは?
腕神経叢の中で最も太く最も重要な神経で、前腕の中心部を通って、手首・指先に伸びている。
正中神経は、手掌撓側の知覚を司り、前腕の回内(内側にひねって回す運動)、手関節の屈曲、手指の屈曲、母指球筋(母指の付け根の筋肉)の運動を支配する。

原因
- 切創や開放創による受傷、骨折
- 手根管症候群
- 肘周辺のフォルクマン拘縮の合併など
手根管症候群とは?
手関節付け根にある手根管内で、正中神経が何らかの原因で圧迫されて、神経障害を来たしたもの。
症状
低位正中神経の傷害時(手根管症候群)
- 母指・示指・中指・環指撓側の痺れや痛み
- 母指球筋の萎縮
母指対立運動(母指を他の指の向えに持っていく運動)が困難になる。
母指球筋の萎縮により外見的に、平べったい猿のような手になることから猿手(さるて)と呼ばれる。

高位正中神経(前骨間神経)の傷害時
- 母指・示指・中指の屈曲力低下
→祈祷手(きとうしゅ)や涙のしずくサインがみられる。 - 回内ができなくなり、手関節の屈曲力低下
- 母指対立運動や母指外転筋の低下

観察ポイント
- 母指の屈曲運動は可能か
- 母指と小指の対立運動は可能か
- 母指~環指の痺れ・痛みの出現はないか
予防
- 外傷やギブス固定により正中神経を圧迫する危険性がある場合、患部の挙上、アイシング、手指の運動により腫脹を増強させない対応を行う。
尺骨神経麻痺
尺骨神経とは?
上腕骨内側上顆あたりを通って尺側を走行し、そのまま環指と小指に伸びる。
尺骨神経は、小指と環指の感覚や運動をつかさどる他、第2~5指の外転・内転運動、手関節の屈曲にも関与している。

原因
- 肘関節の長時間の圧迫(肘部管症候群)
- 手掌尺側の長時間の圧迫(ギヨン管症候群)
- 上腕骨顆上骨折
- リウマチ
- 変形性肘関節症など
症状
- 環指・小指の痺れ
- 指伸筋の麻痺により、環指・小指のMP関節が過伸展、DIP・PIP関節は屈曲する。
→鷲手(かぎ爪指変形)と呼ばれる。 - 骨間筋委縮による第2~5指の開閉運動(外転・内転)の障害

観察ポイント
- 環指・小指が伸展可能か
- 小指の開閉運動は可能か
- 環指・小指に知覚鈍麻(痺れ)はないか
予防
- 上肢を三角巾や装具固定している場合には、肘関節内側が圧迫されないよう、除圧を行うなどして工夫する。
腓骨神経麻痺
腓骨神経とは?
腓骨神経(ひこつしんけい)は、坐骨神経から分岐する神経で、総腓骨神経は、膝窩下でさらに深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれる。
深腓骨神経は、下腿前面の深部に位置し、前腓骨筋、長趾伸筋、短母趾伸筋、短趾伸筋など、主に足背にある筋肉を支配。浅腓骨神経は、下腿外側を通り、下腿外側にある長腓骨筋・短腓骨筋を支配する。

原因
- 腓骨頭部(膝外側の出っ張った骨のとこ)の圧迫
→下肢のギブス、装具、牽引架台などで圧迫されやすい。 - 膝の外傷や骨折、脱臼
症状
- 腓骨神経支配領域(下腿外側・足背)の痺れや疼痛
- 足関節や母趾の背屈が困難
→垂れ足という。
観察ポイント
- 足関節・母趾が背屈可能か
- 足背の知覚障害の有無
- 下肢が外旋位になっていないか、腓骨頭が圧迫されていないか
- 装具・ギブスでの圧迫感はないか
予防
- 架台や足枕使用時には、腓骨頭部の圧迫しないよう、タオルやクッションを使用し、外旋位を避ける。
- 定期的に、母趾の運動や足背の知覚を確認する。