抗凝固薬と抗血小板薬の違い
抗凝固薬と抗血小板薬は、ともに抗血栓薬と呼ばれる薬で、『血栓(血の塊)を作らせない』という点では同じなのだが、『どんな血栓を作らせないか』が違う。
この抗凝固剤と抗血小板薬が標的とする血栓の違いについては、各薬剤の特徴で詳しく見ていく。
抗血小板薬
抗血小板薬とは?
血液凝固機能のうち、一次止血で働く血小板の働きを抑制することで、血小板血栓を作らせない薬。
血液が凝固するしくみは『血液検査値の見方①凝固系』参照
抗血小板薬の標的、血小板血栓とは?
血小板は、血流が速いところで活性化しやすい性質をもっているので、血小板血栓は主に動脈で作られる。
具体的にどんな時に作られるのかというと、生活習慣病や加齢により動脈硬化で血管壁がもろくなっているところに傷がついたときに、血小板が凝集し、血栓が作られる。
この血小板血栓が、冠動脈を塞ぐと心筋梗塞に、脳血管まで到達して詰まらせると脳梗塞を発症する。
抗血小板薬の適応
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 脳梗塞(心原性脳梗塞以外の)
- TIA(一過性脳虚血発作)
- 冠動脈バイパス術(CABG)・経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行術における血栓・塞栓形成の予防
- 川崎病・・・虚血性心疾患の予防、後遺症治療のため
川崎病とは?
冠動脈の炎症を特徴とする全身性血管炎。原因は不明だが、動脈の内膜や外膜に炎症が起きることで、血栓が形成されて、狭心症や心筋梗塞を合併する。
主な抗血小板薬
アスピリン
商品名:バイアスピリン、バファリン
シロスタゾール
商品名:プレタール
硫酸クロピドグレル
商品名:プラビックス
チクロピジン塩酸塩
商品名:パナルジン
抗血小板薬の副作用
- ショック
- アナフィラキシー
- 出血
- 喘息発作
抗血小板薬使用の注意点
- 消化管潰瘍のある患者の場合、消化管潰瘍を悪化させることがあるので、プロトロンプ阻害薬(ランソプラゾール、オメプラゾールなどの胃薬)を併用する。
- 副作用として喘息発作を起こす危険性があるため、喘息患者への投与は禁忌!
- 出血のリスクが高くなるので、凝固系の血液データはチェックしておく!
- 腎機能・肝機能の低下により、副作用出現のリスクが高くなるため、リスクのある高齢者などでは副作用や全身状態の観察を慎重に行う。
抗凝固薬
抗凝固薬とは?
血液凝固機能のうち、二次止血で働く凝固因子に作用し、フィブリンの生成を阻害することで、フィブリン血栓を作らせない薬。
抗凝固薬の標的、フィブリン血栓とは?
フィブリンとは、血栓を頑丈に固める『のり』のような働きがあり、赤血球や血小板を巻き込んで、血小板血栓より大きい血栓を作り出す。
このフィブリン血栓は、血流の遅いところに発生しやい性質があるので、主に静脈で作られる。
具体的には、心房細動(Af)で心房内の血流が滞っていたり、長期臥床により下肢の静脈血流が滞っているときに生成されやすい。
生成されたフィブリン血栓は、静脈→心臓→動脈へと血流に乗っていき、脳血管を塞げば脳梗塞、肺動脈を詰まらせれば肺塞栓症(エコノミー症候群)、冠動脈を詰まらせれば心筋梗塞を引き起こす。
抗凝固薬の適応
- 血栓塞栓症
(静脈血栓、心筋梗塞、肺塞栓、心原性脳梗塞など) - 弁膜症の術後
主な抗凝固薬
ヘパリンナトリウム
商品名:ヘパリン、へパフラッシュ
ワーファリンカリウム
商品名:ワーファリン、ワーファリンカリウム
抗凝固薬の副作用
- ショック
- アナフィラキシー
- 出血
- 皮膚壊死
※ワーファリン投与開始後、一過性に過凝固状態となり、微小血栓を生じることで皮膚や脂肪組織に壊死を起こすことがある。一般的に投与開始数日で生じるとされている。 - 肝機能障害、黄疸
抗凝固薬使用の注意点
- 出血のリスクが高くなるので、出血傾向、重篤な肝障害・腎障害、中枢神経の手術または外傷後日が浅い、妊婦、骨粗しょう症治療用ビタミンK2製剤投与中などは使用禁忌!!
- 抗凝固薬は多くても少なくても重大な結果を招く危険性があるため、自己判断で中止・まとめ飲みしないよう指導する。
- 凝固因子に必要なビタミンKの合成を抑制して効果を発揮する薬で、ビタミンKを多く含む食品は効果を弱めてしまうので摂取禁止!
★まとめ★
動脈硬化などで動脈にでできる血栓予防には抗血小板薬!
血流が滞ってできる血栓予防には抗凝固薬!