冠動脈血流の急激な減少により、心筋壊死をきたした状態。
動脈硬化の原因となるプラークが破綻し、血栓が形成されることで冠動脈の血流が途絶え、閉塞部より末梢の心筋に壊死を来たす。
壊死した心筋の範囲により、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI:ノンステミ/エヌステミと読む)とST上昇型心筋梗塞(STEMI:ステミと読む)に分類される。
NSTEMIは、心内膜下の壊死にとどまり、STEMIは心筋全層の壊死を来たした状態でありSTEMIの方が緊急性が高く、治療方針も異なる。
心電図は急性心筋梗塞の診断に最も有効で、おかしいなとおもったらすぐに12誘導心電図で検査し、5~10分おきに評価する。
ほとんどは、障害電流を示すST上昇を呈し、発症2~6時間後には心筋の壊死を示す異常Q波、2~3日後には陰性T波など経時的にに心電図も変化する。壊死した心筋は治ることはないため、一度でも心筋梗塞を起こした患者は異常Q波形が消失することはない。
※NSTEMIの場合には狭心症と同じように障害電流を示すためSTは低下し、異常Q波はみられない。
CK-MB | 心筋に多く存在する蛋白 | ↑ |
---|---|---|
トロポニンT | 心筋に特異的に存在する蛋白 | ↑ |
ミオグロビン | 心筋や骨格筋に存在する蛋白 | ↑ |
H-FABP | 心筋に特異的に存在する蛋白 | ↑ |
心筋内に存在するこれらの蛋白が、心筋障害時には血液中に漏れ出し、値が上昇する。そのため、心筋梗塞が疑われる場合には、これらの心筋障害マーカーをチェックし、心筋障害の有無を確認する。
特に、トロポニンTやH-FABP(ヒト心臓由来脂肪結合蛋白:ラピチェックと呼ばれる。)は心筋に特異的に存在している蛋白のため、確定診断をすることができる。また、H-FABPは1~2時間で上昇をみとめるため、早急な診断が可能となる。ただし、H-FABPは偽陽性となることもあるのでトロポニンTの結果を待ったほうが確実。
この他にも発症2~3時間後に白血球、12時間程度でAST、ALT、24時間以降にはCRPの上昇などの血液データの変化がみられる。
心不全の度合いにより、心拡大・肺うっ血・肺水腫・胸水の貯留がみられることもある。
心電図で心筋梗塞が否定的な場合にも、壁運動異常asynergyや左室駆出率EF、虚血範囲の評価を行うことが可能。
また、心内膜液の貯留や心室内血栓、僧房弁逆流など心筋梗塞に合併する病態を発見することも可能となる。
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心電図でST上昇型心筋梗塞STEMIとわかったら、初期治療としてMONA(モルヒネ、酸素、硝酸薬、アスピリン)を投与する。
鎮痛剤は、強い痛みによる苦痛を緩和するため、強い苦痛により心負荷も増大してしまうため、心負荷を増悪させないためにもに用いられる。
酸素は、低酸素血症は不整脈や心筋虚血を増悪させるため自覚症状がなくても必ず投与する。
硝酸薬の内服は、狭心症との鑑別や、前負荷・後負荷の軽減を目的に使用されるが、血管拡張により低血圧を引き起こすため、普段の血圧より40~50mmHg以下、収縮期血圧90mmHg以下の場合には使用禁忌。
アスピリンは血小板凝集の抑制のために使用される。こちらは副作用として出血傾向があるため、脳出血や心破裂などのリスクがある場合、十分に注意が必要となる。
STEMIの場合には、血栓により血流が遮断されたことにより心筋壊死を最小限にとどめる目的で再灌流療法が行われる。
NSTEMIの場合には、まずCAG(冠動脈造影)をして、適応があれば次の再灌流療法を行う。
梗塞部位や心筋壊死の範囲により、十分な心拍出量がえられず、心不全となることがある。また、心拍出量の低下から心原性ショックをきたすと急性死亡の原因となりうる。
心筋梗塞発症後の不整脈の発生率は高く、一部は致死性の不整脈に移行し死に至る一番多く、一番恐ろしい合併症。
1、VF
VFを合併すると、突然死に至ることが多い。
特に前壁中隔梗塞で発生しやすい。心不全はショックを伴う場合には4時間以内、心不全やショックを伴わない場合には発症12時間以降に出現するとされている。
2、VT
血行動態が不安定なものが多く、頻回に除細動での治療が必要となり、VFと合併する場合も多い。
3、房室ブロック
房室結節を血流する右冠動脈の閉塞(下壁梗塞)で主に発生する。
Ⅰ度~Ⅲ度まで出現するが、一過性に経過することが多い。
心筋が壊死することで、心臓が血圧に耐えられる外壁が破裂し、失血と心タンポナーデから死に至る、救命率が極めて低い合併症。
心破裂はSTEMIの1~6%に合併し、発症24時間以内と、3~5日の晩期に発症のピークがある。
初回の心筋梗塞、前壁梗塞、高齢者、特に女性に多く、側副血行路、ステロイド剤の使用、血栓溶解療法が危険因子となる。
僧房弁の開閉に関与している乳頭筋。
発症後数日で起こることが多く、広範囲の下壁・後壁の梗塞が、乳頭筋まで及ぶことで筋が切れてしまい機能しなくなる。そうすると僧房弁の逆流がおき、血液が十分に送り出せない心不全の状態となる。CABGのほか、僧房弁置換術が必要となることもある。