目的
- 酸素を供給し、呼吸困難を緩和する
- 身体各器官の機能を正常に保つ
適応
- 血ガス分析や酸素飽和度から低酸素血症と判断される場合
PaO2<60%
SpO2<90%
- ショックや血液循環不全などで低酸素症の可能性がある場合
酸素吸入の種類
鼻腔カニューレ
鼻腔専用のカニューレを使用し、鼻腔より酸素を投与する。
最も患者への不快感が少なく、つけたまま会話や食事が可能であるが、最大流量が4Lと決まっているため、低濃度の酸素吸入向きであり、急性呼吸不全には適さない。
可能投与量…4L/分まで
それ以上の投与は鼻腔の乾燥を招き、酸素濃度は上昇しないとされている。
酸素濃度…24~44%
酸素濃度の計算式…20+4X(3L投与した場合には20+4×3=32%となる。)
酸素マスク
専用の酸素マスクを使用し、鼻腔と口腔から酸素を投与する。
可能投与量…5~10L/分
5Lよりも少ない場合、マスク内に呼気がたまることで、PCO2の上昇の危険性があるため、有効な酸素投与ができないとされている。
酸素濃度…40~60%
酸素濃度の計算式…20+4X(5L投与した場合には20+4×5=40%となる。)
リザーバーマスク
酸素マスクに酸素を貯めておくリザーバーがついているもので、酸素濃度60%以上の高濃度酸素吸入時に使用する。
酸素投与量が多くなり、配管から流れる酸素は乾燥しているため、4L以上の投与は加湿するのが望ましい。
可能投与量…6L以上
6L以下だと、マスク内に呼気(二酸化炭素)が貯まる他、リザーバー内に十分な酸素が貯まらないため、有効な酸素投与ができないとされている。
酸素濃度…60~100%
酸素濃度の計算式…10X(8L投与した場合には、10×8=80%)
※高濃度酸素が吸入できるリザーバーマスクの構造!
通常、リザーバーマスクには呼気がリザーバー内にないり込まないように、一方弁がついている。(※一方弁がないものもあるので、各施設で要確認!!)
吸気時には、マスクの両サイドにある一方弁は閉じて、ルームエアーがマスク内に入り込まないようになっている。一方、呼気時には、マスク両サイドの一方弁が開いて、呼気を逃がしている。
もうひとつリザーバーの上にある一方弁は、呼気時には呼気(二酸化炭素)がリザーバーに入り込まないように閉じて、流れてきた酸素はリザーバー内に溜まる。そして吸気時にはリザーバーに溜まった酸素を吸入できるため、ルームエアーや呼気が入り込まない高濃度酸素が吸入できる仕組みになっている!
酸素吸入の必要物品
- 酸素流量計
- 鼻腔カニューレor酸素マスクorリザーバーマスク
- 滅菌精製水(酸素流量4L/分以上で必要)
- 固定用の絆創膏(必要時)
酸素吸入の手順・手技
- 患者さんに酸素を使用する目的を説明して、同意をえる。
- 酸素流量計を差し込み口にしっかり差し込む。(カチっと音がするまで!)
- 4L以上の酸素流量のときには、加湿ボトルのメモリに合わせて滅菌精製水を入れておく。
- 酸素流量計1~2L/分にし、酸素が流れていることを確認する。
- カニューレの場合…鼻腔にカニューレを装着し、必要に応じて両頬あたりに絆創膏で固定する。
マスクの場合…鼻と口を覆い、漏れのないよう固定する。
リザーバーマスクの場合…酸素を10L勢いよく流して、リザーバーに酸素をためておく。その後、簡易マスクと同様に鼻と口を多い、酸素が漏れないよう固定する。
- 指示された酸素流量に調整
- 患者さんの呼吸容態や酸素飽和度を観察する
酸素吸入による合併症
酸素中毒
人が呼吸で酸素を取り込むと、代謝により活性酸素(フリーラジカル)が発生する。活性酸素は毒性があるが、通常の呼吸で発生する分には、体内に侵入した細菌などの有害物質を排除する作用をもち、有益に働いてくれる。
しかし、高濃度の酸素投与を長時間行うと、大量の活性酸素が発生して細菌だけではなく細胞へ攻撃を始める。
酸素中毒とは、過剰に生成された活性酸素により各細胞器官が障害を受け、様々な症状を呈し、最悪の場合死に至る病態である。
症状
悪心・嘔吐、四肢の知覚鈍麻、疲労、鎖骨下の不快感・痛み、呼吸困難
酸素中毒を防ぐための対応
100%酸素吸入では6時間以内、70%酸素吸入では24時間以内、それ以上行う場合には、酸素濃度45%以下が望ましいとされている。
しかし、これはあくまで目安であり個人差もあるため、血液ガス分析で経時的に酸素化を評価し、必要以上の酸素投与は避けることで、酸素中毒を予防することが大切となる。
CO2ナルコーシス
慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの患者に対して高濃度酸素を投与した場合には、呼吸性アシドーシスを引き起こし、意識障害や自発呼吸の減弱などを引き起こす。
主な症状
頭痛・頭重感、呼吸困難、自発呼吸の減弱、生あくび、意識障害、脈拍数の上昇、血圧の上昇、動悸、発汗、皮膚の紅潮など
CO2ナルコーシスを防ぐための対応
血液ガス分析での酸素化(PaO2)の改善だけにとらわれず、患者の既往歴や循環の評価を行いながら、適切に酸素化を改善することが大切となる。
(吸収性)無気肺
通常ルームエアーには79%の窒素、21%の酸素が含まれている。
高濃度の酸素吸入時には、肺胞内の酸素濃度が上がる一方で、窒素濃度は低下した状態となる。その状態で酸素が肺胞→血管内へ取り込まれると、肺胞内を維持するガス(窒素)がなくなるため、肺が虚脱しやすく無気肺が起こる。
症状
呼吸困難、頻呼吸
無気肺を予防するための対応
吸入酸素濃度は出来る限り50%以下にする。
100%酸素吸入では6時間以内、70%酸素吸入では24時間以内の投与が望ましい。
感染
加湿用の滅菌蒸留水が汚染することにより感染(肺炎)を起こす。
症状
副雑音の聴取、気道分泌物の増加・性状の変化、発熱など
感染を防ぐための対応
加湿用ボトルの滅菌蒸留水が減った場合、継ぎ足しは行わず、残りを破棄して新しい滅菌蒸留水を入れるようにする。
酸素吸入中の観察ポイント
呼吸状態やバイタルサイン
投与している酸素量は適切か評価するため呼吸状態の観察、呼吸回数・SPO2値の測定を行う。また、上記で説明した『酸素吸入による合併症』を起こす危険性もあるため、その点も頭に入れ、全身状態の観察を行う。
適切に酸素が投与されているか
吸引処置などで一時的に酸素投与を上げることもあるため、訪室時には必ず指示の酸素投与量であるか確認を行う。また体動や移動により、マスクやカニューレが外れていたり緩むことも多いため、差し込み口からチューブを辿って正しく患者へ投与されているか確認する。
吸入器具の圧迫により皮膚障害が起きていないか
マスクやカニューレの接触部や、固定用ゴムの長期圧迫により皮膚傷害を起こすことがある。発赤など皮膚トラブルが起きていないか毎日観察するのはもちろん、予防的にクッション材やガーゼを使用するのも効果的。
加湿ボトルの水量は減っていないか
酸素流量が多いと、水量の減りもその分早い。
充分に加湿されていないと、鼻腔・口腔の乾燥により効果的な酸素投与ができないため、訪室時には水量が適正量入っているか確認する。
もし足りない場合には、感染防止のため、残っている滅菌蒸留水は破棄して新しい滅菌蒸留水を入れる。